『チャイルド44 森に消えた子供たち』


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恐怖政治の描き方に時代の変化
 原作は、『このミステリーがすごい!』で2009年版海外編の1位に輝いたトム・ロブ・スミスの同名小説。旧ソビエト連邦で実際に起こったアンドレイ・チカチーロの連続殺人事件をモチーフにしているという。「殺人は資本主義の病。理想国家に連続殺人など起きない」というスターリン思想のもと、闇に葬られた事件を暴いたこの小説は、今もロシアで発禁になっている…なんて聞くと余計に期待が高まってしまう。

 ただ、焦点になっているのはシリアルキラーの深層心理や背景よりも、事件の真相に迫ろうとする捜査官レオVS国家権力の攻防戦が中心。トム・ハーディやゲイリー・オールドマンらがロシアなまりの英語を話し、風貌も現地人になりきっているのは必見だが、良くも悪くもハリウッド色が強く、事件の根底にあるスターリンの恐怖政治の影響があまり感じられない。
 ただこれは時代の変化を象徴しているのかもしれない。米ソ冷戦時代のハリウッド映画では、旧ソ連はもっと冷酷で、理解不能な敵国として描かれ、そりゃもう底知れぬ怖さを植え付けられたものである。しかし旧ソ連時代ははるか昔となり、ハリウッドもそこまで非道には描かなくなった。見る側の問題なのか、描く側の覚悟が足りないのか分からないが、ただ歴史は遠くなりにけり。だからこそフィクションであれ、伝えていくことの重要性を本作を見ながら実感したのだった。★★★☆☆(中山治美)

【データ】
監督:ダニエル・エスピノーサ
製作:リドリー・スコットほか
出演:トム・ハーディ、ゲイリー・オールドマン、ノオミ・ラパス
7月3日(金)から全国公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美