『未来を変えた島の学校』 高校再興が生んだ好循環


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『未来を変えた島の学校』山内道雄・岩本悠・田中輝美著 岩波書店・1500円+税

 2006年、島根県松江市の北約60キロにある島に移り住み、地元高校の再興に取り組み始めた若者は「壁」にぶち当たる。会議は脱線ばかりの堂々巡りで、夜は何かと飲み会という「非生産的な時間」という壁だ。

 この壁は半面、人と人との濃密なつながりを意味し、その高校の生徒たちは自らの暮らしの中から「ヒトツナギ」なる観光メニューを描き出し、観光プランの全国コンテストでグランプリを獲得した。学校の再興につながる好循環の始まりである。
 本書の舞台は隠岐の島前(どうぜん)地区。同地区にある県立島前高校の存続を目指した「島前高校魅力化プロジェクト」がテーマである。島前地区を構成する3町村は03年に合併しないことを決め、そのうちの一つ、海士(あま)町が自立促進プランの柱として同校の存続を位置付け、これが同プロジェクトの発端になった。
 島。合併。自立。学校存続。沖縄でもなじみ深いキーワードだ。本書に「高校の存続は、地域の存続に直結する」とのフレーズがある。「高校」を「学校」に読み替えると、問題のアウトラインがより明確になるだろう。八重山でも、学校の統廃合論議が持ち上がると、学校の存続が地域の活性化とリンクして語られるのが常である。
 島前高校の生徒数は08年に底を打ち、14年には、非合併を決めた03年の水準を超えた。卒業して大学生になった若者が「出前授業」で母校と関わるケースも登場し、近い将来のUターンを予感させる。
 事業を起こすのも、それを潰(つぶ)すのも「人」
 山内道雄海士町長のこの考えに裏打ちされた「魅力化」の取り組みは成功しつつあるようだ。
 では、町の「自立」はどうなのか。本書ではその評価には触れていない。学校があるだけで「自立」はできない。これは島の人には当たり前のことである。そして何より、人づくりの難しさを知り尽くしている筆者たちだからこそ、「自立」うんぬんなどという評価を安易に下すことはできないのであろう。(八重山毎日新聞・松田良孝)
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 やまうち・みちお 1938年、島生まれ島育ち。隠岐島前高等学校の魅力化と永遠の発展の会会長。いわもと・ゆう 79年東京都生まれ。高校魅力化コーディネーター。たなか・てるみ 76年島根県生まれ。大阪大卒、山陰中央新報社入社、同社と琉球新報社の合同企画「環りの海」に携わる。ローカル・ジャーナリスト。

未来を変えた島の学校――隠岐島前発 ふるさと再興への挑戦
山内 道雄 岩本 悠 田中 輝美
岩波書店
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