『バケモノの子』 奇妙な師弟の冒険ファンタジー


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 『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』などのアニメ作家・細田守の新作だ。宮崎駿が引退宣言した今、ずっと言われ続けてきた“ポスト宮崎駿”の称号がいよいよ現実味を帯びてきた。

 親を失った孤独な少年がバケモノの世界に紛れ込み、バケモノの熊徹と奇妙な師弟関係を育みながら成長していく。母子を扱った『おおかみこども~』の次に細田監督が選んだ題材は、師弟。だが熊徹は、腕力にこそ長けているものの精神的には子供同然で、メンターのイメージからは程遠い。だから主人公の九太は、熊徹以外にもそのバケモノ仲間や人間の少女・楓ら大勢の師から学ぶことになる。そんな九太が、次第に細田監督自身と重なって見えてくるのだ。
 映画が内面など目に見えないものを実体化して表現するメディアだとするなら、バケモノの世界や象徴的に登場するメルヴィルの小説『白鯨』は何を意味しているのか? メタファーを駆使して、王道の成長物語を冒険ファンタジーというエンターテインメントへと置き換える洗練された語り口は、もはや宮崎駿をしのぐ。
 宮崎駿が唯一無二の強者・熊徹だとすれば、細田守はそれを内部に取り込んで進化し続ける九太だろう。何のことだか分からなければ、ぜひ映画館で確認してほしい。宮崎駿が引退しても、独創性と普遍性を兼ね備えた細田監督がいる限り、日本のアニメの未来は明るい! ★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:細田守
声の出演:役所広司、宮崎あおい、染谷将太
7月11日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)