『涙のあとは乾く』 果敢な「正義」守る闘い


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『涙のあとは乾く』キャサリン・ジェーン・フィッシャー著 講談社・1600円+税

 著者はオーストラリア国籍で日本に暮らす。ナイフで自身の胸をえぐるがごとく、苦痛に耐え、深く息を吸い、絶望感にさいなまれながら記録された“日記”がまとめられている。彼女がレイプ被害に遭ったのは2002年、横須賀市の米海軍基地の外であった。

 基地内ではないので日本の警察が呼ばれた。その後に彼女にとって最悪の時間が訪れる。いわゆる「2次被害」である。保護されるべき被害者が冷徹に査問され、現場再現まで強制される。犯人を同定するために必須の「レイプ・テスト・キット」は使用されなかった。
 日本ではほとんどの性被害者は名乗り出ることはない。加害者が米軍人である場合はなおさらである。将来にわたっての生活場での蔑視を恐れるからだ。
 しかし彼女は孤独で果敢な闘いを開始した。犯人は容易に“捕まった”が日本の警察には逮捕されず基地内に保護された。東京地裁では300万円の賠償金が言い渡されたが、信じられないことに米海軍は犯人を名誉除隊にし帰国させた。そして行方不明になってしまった。
 再び彼女の追求が米本国にまで続き、12年の歳月と全ての蓄(たくわ)えを使い果たしながら、犯人を捜し当てミルウォーキー郡裁判所に提訴、「日本の裁判結果を米国に審理させた」初めてのケースを成立させた。結果は犯人が罪を認める代わりに賠償金1ドル! 彼女にとって守るべきものは「正義」であったのだ。
 そして被害者である自分をさいなんだ元凶が「日米地位協定」にあることを知る。さらに在日米軍兵士によるレイプ事件の圧倒的多数が沖縄で起きていることも知り、沖縄との関わりが始まった。記者会見でSOFA(地位協定:Status Of Forces Agreement)について語るくだりは圧巻である。
 日米両国政府の理不尽な扱いから彼女は苦しみながらも怒り闘った。“理不尽は怒りと抵抗を呼び、抵抗は友を呼ぶ”。長い闘いの間に多くの支援者が誕生した。評者も沖縄に住む者として深く共感する。
 著者の喫緊の目標は日本全国に24時間体制のレイプ被害者支援センターを設立することである。
 (仲里尚実・県保険医協会会長、精神科医)
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 Catherine Jane Fisher オーストラリア出身。1980年代に来日・永住。2002年4月、横須賀でボーイフレンドを待っている間、飲み物にクスリを盛られ、見も知らぬ米兵にレイプされる。2005年、性犯罪防止と被害者への支援のため「ウォリアーズ・ジャパン」を設立、活動を続ける。

涙のあとは乾く
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