『ジハーディストのベールをかぶった私』アンナ・エレル著、本田沙世訳


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テロリストとの攻防
 過激派組織「イスラム国」の戦闘に参加するため、ヨーロッパの若者が次々に中東に渡っている。フランス人女性ジャーナリストの著者はその背景を探ろうと、インターネットを通じてある戦闘員の男に接触を試みた。架空の女性「メロディー」に扮して。

 著者がつくり上げたメロディーは、生きることに不全感を覚え、イスラム教に改宗した純朴で無教養な20歳。黒いベールをかぶってパソコンの前に座り、スカイプで会話を重ねる。自己顕示欲と支配欲に満ちた戦闘員はたちまちメロディーに夢中になり、求婚の末、シリアに来るよう執拗に迫る。
 やがて男は組織の大物幹部だとわかり、周囲は危険な取材をすぐやめるよう諭すが、著者はより重要な情報を引き出そうと取材にのめり込んでいく。別人格を演じることで精神に変調をきたしながら著者は最後の取材のためフランスを旅立つ。だが事態は思わぬ方向に急展開する――。
 本書はインターネット時代が生んだ異色にして出色のノンフィクションである。ページをめくるに従ってジャーナリストとテロリストの攻防から目が離せなくなる。
 著者の取材手法に当然、賛否はあるだろう。ただ、この取材によってイスラム国の情報と独善的な教え、巧妙な勧誘の手口があぶり出されたことは事実である。
 とはいえ、著者が支払った代償はあまりに大きかった。イスラム国から追われる身となった彼女は今も本名や経歴を明かすことができない。彼女がベールを脱ぐ日は来るのだろうか。
 (日経BP社 1800円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。山口県出身。共同通信記者を経て2007年フリーに。記者時代は演劇、論壇などを担当。2009年末から本欄担当に。東京都小平市在住。
(共同通信)

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片岡義博