観賞後、良い邦題とかみしめた。
1978年に起こった喜劇王チャーリー・チャップリンの遺体誘拐事件をモチーフにした本作。英題は『The Price of Fame』(名声の代償)で、事件に焦点を当てたもの。実際、当時、ソプラノ歌手マリア・カラスの遺灰が盗まれたり、エルビス・プレスリーの遺体が盗難未遂に遭うという事件が頻発。それらの事件をヒントに、低所得者の移民が身代金目的で遺体を誘拐した事件だった。でも遺族は犯人を告訴しなかったし、それどころか、チャップリンが愛してやまなかった映画が、また新たに1本生まれたのだもの。
さらにチャップリン家の人々が出演したばかりか、邸宅も貸し出して全面協力する粋な計らい。主題のみならず、製作過程全体を含めて「贈りもの」と表現しているんだな、きっと。素晴らしい。
妻の治療費が払えずに困っていた真面目人間オスマンは、お調子者の親友エディにそそのかされ、この奇想天外な犯罪に手を染めてしまう。しかし、チャップリンが常に労働者や弱者の味方だったように、この映画のラストにも、2人にちょっとした光を当てるラストが用意されている。これがまた粋。★★★★☆(中山治美)
【データ】
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:ブノワ・ポールヴールド、ロシュディ・ゼム、キアラ・マストロヤンニ
7月18日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き
(共同通信)