『竹富町史第6巻 鳩間島』 先人の歩み まるごと記録化


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『竹富町史第6巻 鳩間島』竹富町史編集委員会編 竹富町役場・3000円+税

 竹富町史の「島じま編」シリーズは、すでに竹富島編、小浜島編、新城島編が刊行されており、本書は同シリーズの4冊目である。700ページ余の大著であり、既刊のものと同様に、島の歴史をまるごと記録化するという関係者の意気込みが伝わってくる。

 本書を通読してあらためて思ったのは、竹富町史「島じま編」刊行の意義、すなわち歴史資料や民俗資料を各島ごとに1冊にまとめることの重要性についてである。歩んできた歴史が島ごとに固有であるのは当然のことだし、民俗の地域差として捉えられる島ごとの民俗の特徴は、地域間に共通する要素の存在とともに、民俗学的比較研究が成立する根拠になる。本書で確認できた、民俗学的議論に有用な資料のいくつかを挙げることにする。
 豊年祭のパーレーは、舟を沖合に出して、インヌスク(海の底)からもたらされるユー(豊穣(ほうじょう))を満載してくる儀礼だとされるが、それと八重山の他地域の豊年祭や節祭の舟漕(こ)ぎ儀礼との共通性を見いだすのは容易である。
 評者の関心を引いた鳩間の民俗の特徴は枚挙にいとまがないが、魚の目玉が好物、人間のオナラが大嫌いで、仲良くなった人間に大漁をもたらすという「マーザ火」は、沖縄本島のキジムナーと性格が共通するのが興味深く、一方では、マーザ火とは区別される、樹に宿るキジムナーもいるという点も看過できない。また、死者の洗骨は女性の役割とする地域があるが、鳩間での洗骨は男性の仕事で、女性は墓に行くこともないという点も要注意である。さらに、八重山各地の家の落成式で使用されるユイピトゥガナシが髪のある人形だというのは、鳩間のみの特徴といえるだろう。
 ところで、70年前の終戦直後には654人だった島の人口が、現在ではわずか52人だという事実には強い衝撃を受けた。そのような困難な状況の中で島の未来がどのように展望できるのか、関係者の模索が続くものと思うが、その際に本書に記された島の先人たちの歩みを参照することがその一助となることを期待したい。
 (赤嶺政信・琉球大学法文学部教授)
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 たけとみちょうしへんしゅういいんかい 「鳩間島」専門部会は、吉川安一部会長、加治工真市、島袋憲一、吉川英治、大城肇の各委員。