恐ろしいタイトルの、清らかな恋愛小説
本書を持ち歩いていたら、知人から「なんて怖いタイトル!」と驚かれた。カバーを外した状態だったので、どんな方向の本か分からなかったからというのもあるけれど、確かに剣呑な題名ではある。
しかしこれが美しいラブストーリーなのだ。今僕は、物語の中に向かって自分の膵臓を差し出したいような気分なのである。少々大げさな表現ではあるが、読了した方には理解していただけると思う。
主人公は、1人の友達もいない男子高校生。休み時間も誰ともしゃべらないような彼が、病院でクラス一番人気の女子を見かける。彼女が忘れていった文庫本を興味本位で開いた彼は、それが本ではなく日記であることに気が付く。そしてそこには、いつも笑顔の彼女が実は余命いくばくもないと記されていて……。
そこから2人の関係は友人に、そしてそれ以上の何かに発展していくのはお決まりといえばお決まりかもしれない。さらに彼女は物語上もっともいいところ(の直前)でこの世を去ってしまうのだから、ずるい!と言えないこともない。しかしここにはあまたの難病小説と一線を画する繊細さがある。ストーリーラインは大胆なのに、そこにおける2人の感情の動きに緻密さとオリジナリティーがあるのだ。そこがいい。すごくいい。
死期が迫った女子高生を好きになるなんて切ないに決まってるじゃん!という気持ちをちょっと脇において、どうぞ本書をご一読いただきたい。
なぜ人は人を求めるのか。誰かを大切に思う気持ちとはなんなのか。そんな普段は面倒だし恥ずかしいしで、あまり考えないようなあれこれを、はっきりと思い出させてくれる物語なのである。僕は今、誰かと「君の膵臓をたべたい」という一文の意味について、言葉を交わしたい気分だ。
作者の住野よるさんは本作がデビュー作とのこと。素敵なニューフェースに出会えたという喜びもある。
(双葉社 1400円+税)=日野淳
(共同通信)
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日野淳のプロフィル
ひの・あつし 1976年生まれ。出版社で15年間、小説、音楽、ファッションなどの書籍・雑誌の編集に携わり、フリーランスに。今、読む必要があると大きな声で言える本だけを紹介していきたい。