『野火』 ホラーになった?戦争文学の名作


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 鬼才・塚本晋也が、大岡昇平の実体験に基づく反戦小説を映画化。第2次大戦末期のフィリピン戦線で、飢えや孤独、灼熱の日差しによって極限状態に陥っていく日本兵の姿を描く。戦争映画であると同時にサバイバルもの。否、もうほとんどホラーである。

 この原作は巨匠・市川崑も映画化しているが、今回はローバジェットのインディペンデント映画。塚本監督によると、予算の問題で20年以上実現できずに来たが、日本が急速に戦争へと傾斜している危機感から製作に踏み切ったそうだ。
 それもあり、例えば明るいとボロが出るため夜のシーンを多用しながら光量が足りなかったり、引き画がほとんどなかったりと、「もう少し予算があればなぁ」と随所で感じさせるものの、その分、狭い視野が恐怖心を倍増させたり、飛び散る肉塊や血しぶきが強調されてスプラッターの不快感につながるなど、低予算を逆手に取った魅力も少なくない。
 何より、「家族」「親子」へとテーマがシフトする以前の塚本作品のにおいがプンプンして、戦争版『鉄男』と呼びたくなるのだ。彼は決してシネフィル監督ではないし、映画のために映画を作るような映画的求道者でもないけれど、それでも常に映画の本質とコミットし続けるこの作風こそが、世界的な評価を勝ち得ている理由だろう。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本・出演:塚本晋也
原作:大岡昇平
出演:リリー・フランキー、中村達也、森優作
7月25日(土)から全国順次公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
外山真也