『戦場ぬ止み』 激動の現場 当事者視点で描く


社会
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『戦場ぬ止み―辺野古・高江からの祈り』三上智惠著 大月書店・1400円+税

 2014年から15年にかけて、「マガジン9」に連載した「三上智惠の沖縄(辺野古・高江)撮影日記」を柱にまとめられたのが本書。激動の現場に密着して、そこで繰り広げられる人間ドラマを、偏見なく感受した著者の姿勢にまずは感服する。

 外から持ち込まれる難題への対応をめぐって、村人たちは四分五裂に対立する。それは昔からくり返されてきた。対立する内部の人々の価値観の違いや、人生体験に寄り添わないと、現場の事態を正しく判断することはできない。その点、著者の目は辺野古基地に同意する人たちにもしっかりと据えられており、その上で問題の解決策を一体となって考えるという姿勢をとっている。
 ジャーナリストの「公平に」という突き放しでもなく、アカデミズムのフィールドワークという対象化でもなく、自分に課された問題として、寄り添うという方法が、本書のボルテージを高め、また文章の巧みさが胸を熱くする。特に沖縄戦から50年代の土地闘争、70年代の反戦闘争を体験してきた世代には、辺野古や高江の闘争現場は、身体の痛みとして受け止められる。そのために3人の「文さん」をはじめ、山城博治他の心境が直に伝わってくる。
 「この抵抗は、水道の蛇口から飛び散る水を、手のひらで押さえて止めているようなもの、誰かが元栓を閉めない限り、ことは終わらない。手のひらの限界はいつかくる」という危機感は、18年も、現場に通い詰めた著者ならではの実感である。その誰かは誰か。
 政権に方向転換させる手は一人一人の手であろう。著者は民俗学を専攻し、沖国大の非常勤講師も兼ねているという。従来の民俗学の傾向は、一般的に珍しい習俗を考古学の遺物のように研究するという印象だが、先に好評を受けたドキュメント映像「標的の村」、今度の「戦場ぬ止み」(映像)と本書は、これからの民俗学の方法に新たな地平を開くのでは…という期待も抱かせる。山城博治が病床から寄せた推奨文「生身の沖縄」に肉薄した無二のルポ」も必読の文である。(川満信一・詩人)
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 みかみ・ちえ ジャーナリスト、映画監督。元琉球朝日放送(QAB)アナウンサー。監督作品「標的の村」が、キネマ旬報文化映画部門で1位になるなど17の賞を獲得。2014年にQAB退職後、第1作となる「戦場ぬ止み」をことし5月に公開。

戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ): 辺野古・高江からの祈り
三上 智恵
大月書店
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