『ソ満国境 15歳の夏』 捕虜になった中学生たち


社会
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 戦後70年の日本の歩みを一考させられる力作である。原作は、田原和夫氏の同名手記。田原氏は、当時の満州国の首都にあった新京第1中学校の3年生だった1945年5月に、ソ満国境にあった東寧報国農場で勤労動員に送られたという。しかし、級友120人とともに現地に取り残されてしまう。そして、間もなく攻めてきたソ連軍の捕虜となり、2カ月近い拘束を経て、突然解放。命からがら新京まで帰還した経験を持つ。

 映画はその田原氏の実話を、福島の放送部の中学生たちが中国に赴き追究していく展開だ。福島と中国。そして過去と現在につながる歴史や因縁をひもときながら、未来を考える。製作者たちの志は高い。
 教育的なにおいがすると、一蹴するなかれ。先日、広島の平和教育に関する取材に行って驚いたことがある。塚本晋也監督『野火』を見た後に中高生に話を聞いたのだが、これが初めて見た戦争映画であると述べた子の、なんと多かったことか。被害が大きかったゆえ、戦争体験を語るのをちゅうちょする年配者もいれば、聞きづらいという子供たちもいた。広島でも戦争の記憶をつなげていくことは難しいのだ。
 本作の場合、ある方々の導きによって、中学生たちは中国に行き、取材することになる。そこがちょっと強引な展開と思う人もいるかもしれない。でも、こうでもしなければ触れることのない歴史だったのではないか? 何より観客である私たちにとっても、映画化されなければ知ることはなかった。あらためて、映画の役割の大きさも再認識させられた。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:松島哲也
脚本:松島哲也、友松直之
出演:田中泯、夏八木勲、大谷英子、金子昇、香山美子
8月1日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)『ソ満国境 15歳の夏』製作委員会
中山治美