『A子さんの恋人 1巻』近藤聡乃著


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

クセになる不穏な空気
 ニューヨーク在住の漫画家でありアーティスト、近藤聡乃の新刊。前作のコミックエッセー『ニューヨークで考え中』では、下半身レギンス一丁で出歩くニューヨーク女子に度肝を抜かれたり、アメリカ人に「爆笑問題の太田光が『北の国から』の黒板五郎のモノマネをしながら田中裕二に手紙を読む」という説明をするのに苦戦したり、誘われたクリスマスのホームパーティーを、これまで培った英語力を駆使し電話で「風邪をひいた」とウソつきドタキャンしたりと、ニューヨーク暮らしを謳歌している様子がほのぼのと描かれている。

 打って変わって本作はフィクションだ。成田空港で恋人にうまく別れを告げられないまま、3年間のニューヨーク暮らしを終え帰国した29歳の漫画家A子(地味)。放置されていた元?恋人A太郎(かなりのイケメン)は3年前同様、陽気に、そしてしつこくA子にまとわりつく。だがA子にはニューヨークに、これまた別れをうやむやにしたまま若干放置状態の恋人、A君(マルチリンガルのアメリカ人)がいて……。と、あらすじだけ書くと「主人公、なんかモテてモテて困っちゃう、フィクションという名の自慢話なんじゃね?」だが、実際はそうでもない。
 とにかく、登場人物が笑っていないのだ。笑ったかと思ったら、何か含みのある笑みを浮かべている。高野文子を思わせるクラシカルで素朴な、かわいらしい絵柄とは裏腹に、そして日常を淡々と描くストーリーのユルさとは裏腹に、作品は登場人物(というかA太郎とA君)の本音が見えず、なんだかどこか薄気味が悪い。
 果たしてこの物語がどこに着地するのか。ハッピーエンドはあるのか。あるとしたらそれは一体どのような形なのか……。こんなにも先が見えない物語も珍しいかも。きっと私はこれからも、A子たちを追い続けるだろう。だってこの空気、ほのぼのとしているのに穏やかじゃないこの空気、ほかでは味わえないもん。いやー、気になる今後の展開!
 (KADOKAWA 620円+税)=アリー・マントワネット
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アリー・マントワネットのプロフィル
 アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。
(共同通信)

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