『言振り―琉球弧からの詩・文学論』 歴史引き受ける強さ


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『言振り―琉球弧からの詩・文学論』高良勉著 未來社・2800円+税

 「明治政府による〈琉球処分〉以降の薄っぺらな近代は沖縄戦で総破産した。しかし戦後の沖縄社会も、なぜこのように跛行(はこう)的にしか形成されなかったのか。いまわしい〈昭和〉なるものが終わろうとしている。精神の植民地性からまず解放されなければならない」(「沖縄戦後詩史論」)。

 本書は、2011年に出版された『魂振り―琉球文化・芸術論』と対をなす形で刊行された評論集だ。著者は琉球・沖縄の詩を基軸とし、時間と空間、そして文学のさまざまな領域を自在に行き来して、アジアの中で息づく琉球文学の姿を多様に浮かび上がらせる。
 冒頭、引き込まれるのは琉球・沖縄の歴史の中に詩と詩人を位置づける三つの論考だ。「言語戦争と沖縄近代文芸」は明治政府により琉球王国が滅ぼされて以降の文学状況を伊波月城、山之口貘らの作品を通して論じる。沖縄戦とその後の世替わりに翻弄(ほんろう)され、あるべき姿を模索し続ける詩人たちの姿を追った「沖縄戦後詩史論」、そして1980年代以降の詩状況を論じた「琉球現代詩の課題」と続く。
 さらにおもろ、琉歌をはじめ、学生運動と文学の関わりまで、多岐にわたる論点から琉球・沖縄文学の位相が描かれる。沖縄、日本の詩人・作家論、俳句や短歌に関する論考にとどまらず、著者の視野は金時鐘、黄春明らアジアの文学へと広がっていく。
 冒頭の一節は、戦後の沖縄現代詩を俯瞰(ふかん)する論考でまず発せられる言葉だ。本書に収められた論考はテーマもジャンルも多岐にわたるが、その基軸には琉球・沖縄の歴史を踏まえ、その中に自らも位置づけられることを引き受ける著者の覚悟、気概がある。それはどの論考からも感じ取れるが、象徴的に現れている一節として引いた。
 高良勉という詩人が紡ぐ言葉には、強さとしなやかさが同居する。それは力を持つ者の思惑に引き裂かれ続けてきた沖縄が、ゆがんだ自己像を破壊し、再構築することを繰り返す中で獲得してきた「強さ」を写している。(宮城隆尋・詩人)
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 たから・べん 1949年南城市生まれ。静岡大卒。詩集『岬』で第7回山之口貘賞。日本現代詩人会会員。沖縄大学客員教授。評論集に『魂振り―琉球文化・芸術論』。

言振り: 琉球からの詩・文学論
高良 勉
未来社
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