『日本のいちばん長い日』 終戦前夜の舞台裏に迫る


社会
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 現代の巨匠・原田真人が、半藤一利のベストセラー・ノンフィクションを映画化。1945年、日本がポツダム宣言を受諾して降伏へと至る終戦前夜の舞台裏に迫る。この原作は発表直後の67年にも岡本喜八によって映画化されているが、ストーリーの基本構造はリメークと呼びたくなるほど似ている。だが、その分、違いも際立つ。

 筆頭は、原作通りに昭和天皇の内面に踏み込んでいるところ。岡本版では自主規制が働いて描き切れなかったこの部分の再現こそが、原田監督が終戦70年の今年もう一度映画にしようとした最大の理由だろう。
 もう一つは、当事者たちの家族、特に女性の視点が盛り込まれているところ。彼が時代性に敏感な監督であることは、現代社会が抱える女性事情を時代劇の枠組みを借りて描いてみせた前作『駆込み女と駆出し男』を見れば一目瞭然。故に今度の映画化には、日本の右傾化の一因となっている“自主規制”に対する警鐘の意識も読み取れる。
 そんなメッセージ性とエンターテインメントのバランスが、今回も絶妙なのだ。一見、前作に比べると作家性が立っていないように映るかもしれないが、このバランスこそが原田作品の真骨頂であり、往年の巨匠たちをリスペクトし、そのスキルを再利用しているところもまた彼らしい。本作にも往年の日本映画のような風格が備わっているのは、それ故だ。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:原田真人
出演:役所広司、本木雅弘、松坂桃李、堤真一、山崎努
8月8日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也