『沖縄返還と通貨パニック』 米出し抜く「交渉の舞台裏」


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『沖縄返還と通貨パニック』川平成雄著 吉川弘文館・2100円+税

 沖縄復帰時に行われた「米ドル」から「日本円」への通貨交換。その舞台裏を、コザ騒動など時代背景を踏まえた上で丁寧に検証した秀逸の探求書である。
 総額1億331万5千ドル。戦後27年間の米軍統治下で、琉球住民が稼ぎ出した現金資産である。交換件数は29万件。交換された円は315億円に上る。

 日本の戦後処理の中でも最大級の政治・経済問題である。大量の円を、いかに琉球に運び込むか。回収されたドルを、どう処理するか。
 難題は、1971年のニクソン・ショック(ドルと金の交換禁止)が加わり、琉球住民を奈落の底へとたたき落とす。
 1ドル360円の固定相場制から変動相場制へ。ドル交換比率は305円へ。復帰で住民の財産は、2割近く消えうせる。国際金融市場と政治の容赦ない攻勢に、琉球政府はどう立ち向かうか。
 当時の屋良朝苗行政主席、その下で通貨交換業務に奔走する宮里松正副主席、宮里栄一企画局長、喜久川宏通産局長、与座章健金融調査庁次長らと、佐藤栄作首相、山中貞則総務長官、田辺博通沖縄・北方対策庁調整部長らとの手に汗握る政治交渉の舞台裏が、膨大な資料を基に丁寧に再現、検証されている。
 沖縄の戦後史は、時に推理小説や社会派ドラマ、冒険活劇以上にスリリングで、地獄の淵(ふち)をさまようような恐怖と憤怒、絶望の中から辛うじて生き延びていく主役たちの物語にあふれている。
 息詰まる政治の舞台で、住民の財産はいかに確保されたか。米国を「出し抜き」、日本政府を丸め込む。その手法は、今も日米間の政治に翻弄(ほんろう)される県民にとって必読の指南書である。
 本書は終戦直後史となる『沖縄 空白の一年 一九四五-一九四六』、米軍統治下の強制接収などを追調査した『沖縄 占領下を生き抜く軍用地・通貨・毒ガス』に続く著者「三部作」の一つ。琉球大学教授退官記念論文でもある。交換ドルの処理も含め著者の「密約と機密に覆われた沖縄戦後史」の今後の解明作業に注目したい。
(前泊博盛・沖縄国際大学教授)
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 かびら・なりお 1949年、与那国島生まれ。86年、法政大学大学院人文科学研究科博士課程修了。今年3月に琉球大学法文学部教授を退官。

沖縄返還と通貨パニック
川平 成雄
吉川弘文館
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