『ひとりひとりの戦場 最後の零戦パイロット』


社会
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生き証人のインタビュー集
 一昨年発表したドキュメンタリー映画『陸軍登戸研究所』がキネマ旬報文化映画で第3位に選ばれた、楠山忠之監督の新作。とはいえ、以前から行っていた戦争体験者のインタビューをまとめたもので、前作同様、入念なリサーチと、取材対象者との関係を積み重ねながらカメラを向けた、丁寧な仕事と労力がうかがえる。

 登場するのは、今年8月で99歳の元零戦パイロット原田要さん、真珠湾攻撃に参加した巡洋艦「筑摩」の元乗組員・重田常治さん(95)、その真珠湾攻撃で家を失った日系2世の画家・タカラ・スエキチさん(86)など、まさに生き証人たち。
 彼らは、70年前の記憶を鮮明に語り、しかも話しているうちに興奮とも高揚とも取れる生き生きとした表情となり、話も熱を帯びてくる。それは、あらゆる同様のドキュメンタリーで共通して言えることだが、彼らにとっては最も多感な時期に体験した青春の思い出だ。それを振り返る時にアドレナリンを出させてしまうのが戦争の怖さの一つなのだと理解しようとしているのだが、すんなり受け入れられないものがある。
 それは筆者が戦争体験者ではなく、いつ死ぬかもしれない恐怖や人間の狂気を体感したことがないから、どこか他人事のように思ってしまうのか? そんな罪悪感すら芽生えてきた。
 むしろ話を聞きながら、犠牲になった多くの命を想像した。そして、もう声を発せない人たちの思いも背負って、カメラの前で語る。言葉からは分からない彼らの心情を考える日々である。★★★☆☆(中山治美)

 【データ】
監督・編集:楠山忠之
製作:楠山忠之、菊池笛人、鈴木一
出演:原田要、重田常治、リチャード・ジロッコ
8月15日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美