芸能・文化

『ヘイト・スピーチ法 研究序説』 憲法の根本規範を啓蒙

『ヘイト・スピーチ法 研究序説』 前田朗著 三一書房・8000円+税

 日本国憲法103カ条の条項は、憲法制定の萌芽(ほうが)となる憲法の「根本規範」に基づいて制定されている。民法、刑法、その他の全ての法令は、人々の外部的な言動、社会生活について、網の目のように張りめぐらし、人々の家庭・社会生活を規律している。

 明治憲法の根本規範は、同憲法一条に定める「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」で個人の尊重は重んじられなかった。言論の自由は制限され、富国強兵策を掲げて太平洋戦争の遠因になった。
 敗戦に伴って、ポツダム宣言の求める「民主主義的傾向の復活」と「基本的人権の尊重」は新憲法制定の中核になった。同宣言を受け入れて制定された日本国憲法の萌芽である根本規範は「個人の尊重(尊厳)」(憲法13条)である。
 本書は、憲法12、13条などに基づいて表現の自由を乱用するヘイト・スピーチを刑事規制することが、日本国憲法の根本理念に従った正当な解釈であることに関する詳細な研究書である。
 ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムに関する法的定義は、日本には存在しない。師岡康子はヘイト・スピーチの本質は、マイノリティーに対する表現による「暴力、攻撃、迫害である」と指摘している(本書21ページ)。現行法では、言葉による表現が、威力業務妨害、脅迫、名誉毀損(きそん)、侮辱罪などに該当する場合は、それぞれの犯罪行為として処罰され、差別扇動犯罪としては、規制していない。在特会会員らによる京都朝鮮学校に対する「朝鮮学校を日本から叩き出せ」などの暴言に対して、京都地裁は威力業務妨害罪などを認定している。
 憲法の基本規範「個人の尊重」は日本国民に浸透していない。百田尚樹氏の「琉球新報、沖縄タイムスをつぶせ」との沖縄県民に対するヘイト・スピーチは、その一例である。自民党憲法改正草案13条は、個人の尊重よりも公益を重視し、「個人として尊重される」は「人として尊重される」に改正されることを定めている。
 本書は表現の自由の乱用であるヘイト・スピーチをヘイト・クライムとして刑事規制することを求める点で、憲法の根本規範に関する啓蒙(けいもう)書でもある。(垣花豊順・琉球大名誉教授)
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 まえだ・あきら 1955年、札幌生まれ。中央大学法学部、同大学院法学研究科を経て、現在、東京造形大学教授。刑事人権論、戦争犯罪論専攻。著書に「ヘイト・クライム」など多数。



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