『シリーズ日本の安全保障第4巻 沖縄が問う日本の安全保障』


社会
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『シリーズ日本の安全保障第4巻 沖縄が問う日本の安全保障』 島袋純、阿部浩己編 岩波書店・2900円+税

「地球村」生き残りを追求
 国際安全保障なる表現が日本語でも流通するようになった。いわば国家安全保障に軸をおく米国育ちの安全保障研究に対抗して、「地球村」に住む人間一人一人を大事にするヨーロッパ生まれの批判的学問の創出である。

 こうした研究動向と相まって、日本でも安全保障研究の再検討の試みがなされるようになった。その一つが、日本の安全保障を論じるシリーズ刊行であろう。まず、安全保障をさまざまな学派や理論の流れに設え直して、日本とその周りの地域という領域的空間の安全やグローバル化の著しい技術や環境などの空間を超えた安全を取り上げる。そして、我々(われわれ)人間たちの暮らす「地球村」が生き残るための価値を追求する。
 その中で、日本の安全保障について「沖縄が問う」た成果を収めたのが本書である。
 通読すると、本書が問うていることは、沖縄の人々にあるべき「自己決定権」がないがしろされている現状への批判である。自らのことを決めることが人権の一つだとすれば、沖縄という小さな「村」の人々が、沖縄社会に影響のある米軍基地建設の是非を問うのは当然のことだ。現時点では、沖縄の人々は「自己決定権」の行使ができない状態に置かれている。所収の小松寛、波平恒男、阿部浩己、島袋純らの論文から、その根拠が日本国憲法にあると思われる。
 執筆者たちの多くは、2014年秋の沖縄県知事選挙の結果やそれまでにも示されてきた辺野古での米海兵隊飛行場建設反対の沖縄の意思表明を無視する日本政府に対し不満を抱き、不信を覚えている。と同時に、埋め立て工事開始への危機感を共有している。とりわけ、前泊博盛、川瀬光義、屋良朝博、佐藤学らの論文は、現在進行の辺野古問題を見据えている。
 本書を通じて、新しい国際安全保障でいう一人一人の安全が危険にさらされる事態が米軍基地によって沖縄で引き起こされ続けている、との理解は深まる。過去(鳥山淳論文)にも、現在(秋林こずえ論文)も、軍隊によって人権が無視されているのである。沖縄の現実を知るためにふさわしい、各分野の専門家による良書となっている。(我部政明・琉球大学教授)
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 しまぶくろ・じゅん 1961年生まれ。琉球大学教育学部教授。行政学、地方自治論。
 あべ・こうき 1958年生まれ。神奈川大学法科大学院教授。国際法学。