『夏をゆく人々』 トスカーナの養蜂一家めぐる物語


社会
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 昨年のカンヌ映画祭で、第2位に当たるグランプリに輝いたイタリア映画。1981年生まれの女性監督アリーチェ・ロルヴァケルの長編2作目で、トスカーナ地方の人里離れた土地で昔ながらの養蜂を営む家族のひと夏が、4姉妹の長女ジェルソミーナの視点から描かれる。ミツバチを筆頭とする“自然”とテレビや農薬といった“物質社会”の対比など、計算されながらもハリウッド映画とは一線を画した余白や奥行きのある演出が見事だ。

 そんな余白の1つが、フェリーニの影。まずジェルソミーナという名前が『道』でジュリエッタ・マシーナが演じたヒロインと同じであり、銀のかつらで噴水に立つモニカ・ベルッチ(テレビの司会者役)は『甘い生活』のアニタ・エクバーグを想起させる。さらには、現実と幻想が行き来する場面もしかり。
 ただし、独特で強固なリリシズムが特徴のフェリーニ作品と比べると、本作は寓意性をまとってはいるもののむしろ生々しい。基本にあるのはリアリズムだ。少女たちの演技を超えたみずみずしい存在感。子供だけではなく大人の俳優たちにも、実際にそこで生まれ育ったかのような“本物らしさ”がある。それでも、そんなリアリズムの中から立ち上るリリシズムこそが本作の一番の魅力であり、その意味では、やはりフェリーニの影響は大きいのかもしれない。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
出演:マリア・アレクサンドラ・ルング
8月22日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)