『クーキー』 捨てられたテディベアに生命が宿り…


社会
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(C)2010 Biograf Jan Sverak, Phoenix Film investments, Ceska televize a RWE.

 人形アニメ大国チェコから届いた愛すべき一編。監督は、アカデミー外国語映画賞を受賞した『コーリャ 愛のプラハ』のヤン・スヴェラーク。パペットもの(厳密には実写との融合作品)にしてはセリフが多いのは、実写の監督ゆえだろう。

 クーキーは、ピンク色のテディベア。古くてほこりっぽく、持ち主の少年がぜんそく持ちだったため母親によって捨てられてしまう。ところが、そんな彼に生命が宿り…。捨てられたおもちゃが持ち主の下に戻ろうとする話と言えば、『トイ・ストーリー3』が思い出される。作られたのも同時期だ。
 にもかかわらず、これほど印象が異なるのは、クーキーの冒険が現実とも少年の妄想とも、どちらにも解釈できる設定によるところが大きい。そのおかげで、キャラクターの自由度が増し、突然雪景色に変わるなど発想の飛躍も可能になって、世界観が格段に広がっているから。
 さらには、水に弱いぬいぐるみやパペットを用いながら安全なスタジオを飛び出して屋外で撮影した効果も絶大で、とりわけマクロ撮影を駆使した森のシーンの美しさときたら! 加えて、八百万の神や輪廻転生を信じる宗教観も日本人には受け入れやすいはず。そう考えると、現実か妄想かという根本設定自体が、『千と千尋の神隠し』の影響のように思えてくるのだが。★★★☆☆(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:ヤン・スヴェラーク
撮影:ブラディミル・スマトニー
出演:オンジェイ・スヴェラーク
8月22日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)