『ナイトクローラー』 報道パパラッチの悪漢物語


社会
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 トニー・ギルロイの弟ダンの初監督作で、今年のアカデミー賞で脚本賞候補になったのも納得の斬新な発想と練られた構成にうならされる。「ナイトクローラー」とは、事件や事故の映像を撮影してテレビ局に売り込む報道パパラッチのこと。ジェイク・ギレンホールが12キロもの減量によって別人のような空気をまとい、手段を選ばずに業界でのし上がっていく“嫌な奴”を好演している。

 だから本作は、メディアを風刺する社会派映画でありながら、アメリカンドリームものでありピカレスクロマンでもある。そんなアンビバレントな多面性を可能にしているのが、主人公が撮るスクープ映像の絶妙な使い方だろう。
 前半は我々観客と主人公の間に距離があるため、彼の得体の知れなさや狂気に触れて嫌悪感を募らせることになる。つまり、彼やテレビ局を客観視させる異化効果である。ところが、そこに彼が撮る映像=彼の主観が入りはじめ、次第に増えていく。クライマックスのカーチェイスに至っては、衝突しないかとハラハラしてしまう。気が付くと、我々の意識は主人公=犯罪者と同化しているのだ。巧妙である。
 さらには、名撮影監督ロバート・エルスウィットの手によるカラフルで端正な都会の夜の街並と、ビデオカメラによる不安定な報道映像のアンバランスも、主人公の心の闇の暗喩となっていてうまい。★★★★☆(外山真也)
 
 【データ】
監督・脚本:ダン・ギルロイ
出演:ジェイク・ギレンホール、レネ・ルッソ
8月22日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)