『沖縄の米軍基地「県外移設」を考える』 沖縄差別の政策に終止符を


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『沖縄の米軍基地「県外移設」を考える』 高橋哲哉著 集英社・778円

 日本人の「無意識の植民地主義」を問い、「米軍基地を持って帰れ」という主張に半分説得されながら、内心で懸命に反論を試みる日本人が、私の中にいた。
 朝鮮における植民地犯罪を論じ、ヘイト・スピーチと闘うことによって「内なる植民地主義」に気づくようになったが、植民地主義から脱するためには沖縄差別を除かなくてはならない。

そのため米軍基地を本土(ヤマト)に引き取る必要がある。非武装平和主義者としては、沖縄であれ本土であれ基地はいらない。だから、まず沖縄の基地をなくし、次に本土で基地との闘いに取り組む。そうしないと本土の平和運動は本気で米軍基地と闘うことがない。―気が重い結論だが、沖縄差別解消のためには必要だ。その理路を明快に説いたのが高橋哲哉である。
 憲法9条擁護と言いながら、実は本土の国民の圧倒的多数が日米安保条約を是認し、米軍基地を容認している。日本防衛のために米軍基地が必要だと言う。基地押しつけは日米政府だけでなく日本国民の選択であった。
 高橋は、知念ウシと石田雄の往復書簡をもとに、本土に基地を引き取ることを拒否する日本人の感情と論理を明るみに出す。次に高橋は、県外移設論を批判する新城郁夫の議論を検討して、県外移設論の正当性を確認する。
 石田や新城という敬愛すべき論客との応接により、高橋の主張が鮮明になる。「在日米軍基地を必要としているのは日本政府だけでなく、約八割という圧倒的多数で日米安保条約を支持し、今後も維持しようと望んでいる『本土』の主権者国民であり、県外移設とは、基地を日米安保体制下で本来あるべき場所に引き取ることによって、沖縄差別の政策に終止符を打つ行為だ」と。
 植民地主義に貫かれている反戦平和主義を、いかに反植民地主義運動に作りかえていくのか。近代日本を総括する思想的課題である。日本人が植民地主義から解放され、沖縄が植民地主義から解放されるために。(前田朗・東京造形大学教授)
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 たかはし・てつや 1956年、福島県生まれ。東京大学大学院博士課程単位取得。哲学専攻。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。著書に「犠牲のシステム 福島・沖縄」「靖国問題」など多数。

沖縄の米軍基地 ─「県外移設」を考える (集英社新書)
高橋 哲哉
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