『沖縄、脱植民地への胎動』 「ワッター」の人生歩き出す


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『沖縄、脱植民地への胎動』 知念ウシ、與儀秀武、桃原一彦、赤嶺ゆかり著 未來社・2200円+税

 「『胎動』のエージェントは私ではない」。先日出産を終えた私はそのことを肌で感じていた。私は腹の中に赤ん坊を押し込め搾取・抑圧・支配していたわけじゃないとの自負があるので、「胎動」という言葉に一抹の不安を覚えた。しかし他方で、感知できぬほど細やかだった胎児の動きが、やがて意志を持った力強い動きとなること、その命は、未来を生きるため、確かな一点を通過し私と離れること、私たちは近くにいながら、けれどもそれぞれの人生を歩んでいくのだということを知っていたので、「胎動」とは言い得て妙だとも思った。

 本書には、今まさに植民地主義を脱ぎ捨てワッターの人生を歩き出そうとする琉球人の精神や身体の軌跡が描かれていた。
 フェスティバルで普天間基地に入った知念ウシが抱いた「土地とつながれた」という感覚や、フェンス前で琉球人警察に投げ掛けた「わったーが沖縄人守いさ。いったーんわったーが守いんどー」という言葉に目頭が熱くなった。
 與儀秀武は大神島の海岸線を撮る読谷村の写真家比嘉豊光を評し「あなたは他者である」「私は他者である」というボーダーラインについて論じていた。私とあなたのラインを曖昧にする「同化」ではなく、「私は他者である」との名乗りから結び直される関係性について考えた。
 赤嶺ゆかりは近年沖縄でも盛んになっている言語や文化の復興運動を指し「誰のための、何が目的の復興か」と問い掛け、命のつながりであるジニオロジーを振り返りながら立ち位置を常に問うプロセスが大切だと語る。脱植民地化の視点でこれまでの政治や運動の歴史を見つめ直してみたいと胸が躍った。
 桃原一彦は普天間基地の県外移設論を言語化することで「都合のいい沖縄人」から離脱することについて述べている。「わたしは何者なのか」を問うことであらわになる植民地主義の輪郭、それを意識することで植民地エリートの足かせを一つずつ外していけたらと思った。ワッターの脱植民地化を見つめられる貴重な一冊だ。
 (親川志奈子・オキナワンスタディーズ107共同代表)
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 ちにん・うしぃ 1966年、那覇市首里生まれ。むぬかちゃー&むぬかんげーやー。
 よぎ・ひでたけ 1973年、宮古島市伊良部生まれ。琉球大学大学院修了。沖縄文化論。
 とうばる・かずひこ 1968年、南風原村(現南風原町)生まれ。沖縄国際大学准教授。
 あかみね・ゆかり 1967年生まれ。沖縄キリスト学院大学・沖縄国際大学非常勤講師。

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