『琉球列島の自然講座』 奇跡的な多様性伝える


社会
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『琉球列島の自然講座』 琉大理学部「琉球列島の自然講座」編集委員会編著 ボーダーインク・1800円+税

 琉球列島の自然の中にあるさまざまな分野から、その独特さを面白く伝えるのに最適な材料を選び、基本的な話から最近の研究の結果を紹介している。各項目は、その分野に関わっている者にとって基本的な内容が多いと思われるが、素人向けに分かりやすく優しい言葉で書こうと著者全員が意識していることが伝わってきた。

 惜しみなく使用された貴重な写真が、学術的な意味だけでなく、写真集のように感じさせ、読む人を楽しませてくれる。個人的にはイルカンダに訪花するノグチゲラの巻頭写真が絵的にも素晴らしくて気に入っているが、同鳥の同花盗蜜の話題に触れてほしいと思った。
 本書内で紹介されているオオコウモリなど、同花に訪れる動物たちを時間をかけて撮影した中の1枚ではないかと予想する。私の専門は昆虫なので、特に陸上生物以外の分野はど素人であるため、サンゴ礁や海水、鍾乳石など私が知らない知見も多く紹介されていた。琉球列島の自然に興味を持つ方なら、どの分野の方が読んでも楽しめる内容だと思う。年齢的には、理系を学ぶ人であれば中高生以上、それ以外の方なら大人の方向けの内容と感じる。
 本書を読めば、琉球列島の自然が時間をかけて奇跡的にできあがった他にはない貴重なものであることがよく分かり、その地の生物多様性だけでなく、世界の自然がつながっていること、まだまだ知られていない自然があることを意識することができる。
 また、温暖化によるサンゴ礁への影響、やんばるの森の伐採、東村高江のヘリパッド建設など、環境破壊につながる社会問題にも触れており、琉球列島の自然が危機的であるというメッセージを発信している。
 本書は身近な自然について知りたい地元の方々に読んでほしいのはもちろんだが、県外の方が観光に来る前に読めば、さらに琉球列島を楽しみながら知ることができる本だ。この本は、この地の自然を守りたいという著者らの思いによって作られている。
 (宮城秋乃・日本鱗翅学会自然保護委員)
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 りゅうきゅうだいがくりがくぶ 本書は同学部による「国際サンゴ礁教育研究ハブ形成プロジェクト」の活動成果の一つ。

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