『ロマンス』 大島優子の魅力が光る


社会
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 元AKB48のアイドル+箱根というお題を与えられた場合、あなたならどんな物語を思いつくだろう。せいぜい、イケメンとドキュンと出会うラブコメディーか?

 蒼井優のかわい子ちゃんだけではない魅力を引き出した『百万円と苦虫女』のタナダ監督の手にかかると、一癖も二癖もあるドラマが生まれる。小田急線の特急ロマンスカーのアテンダントである鉢子が、ひょんなことから出会った映画プロデューサーと箱根巡りをすることで、人生の重しになっていた母親との関係を見つめ直すヒューマン・ドラマだ。
 過去のタナダ映画のヒロイン同様、鉢子の人生も相当苦い。父が家を出たあと、男の出入りが激しくなった母。近所の妻帯者にも手を出し、彼の娘から、幼き鉢子がののしられるという苦い思いもした。そして鉢子が成人してからというもの、母とは音信不通。その母から突然届いた手紙が、奇妙な映画プロデューサーとの箱根旅の契機となる。
 そして映画プロデューサーにも、しょっぱい出来事が…。そんなブルーな状態にいた2人の奇跡のような出会いが化学反応を起こし、彼らにちょっとした光を照らす。タナダ監督らしい、地に足のついた人生の応援歌だ。
 何より、大島が素晴らしい。もともと子役出身で、女優としても定評のある彼女。だが、今回見せた箱根の街を疾走する際の見事な運動神経の良さ。アイドルオーラを消した地味な役柄。にもかかわらずふとした時に見せるキュートな笑顔などなど、多彩な表情は見ていて飽きない。ロマンスカーのアテンダント役もハマりまくりだ。もはやアイドルと呼ぶのははばかられるが、あえて言いたい。彼女の魅力が光る“アイドル映画”としても大成功と言えるだろう。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:タナダユキ
撮影:大塚亮
出演:大島優子、大倉孝二、野嵜好美、窪田正孝
8月29日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)