『しあわせへのまわり道』 人生の岐路重層的に


社会
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 NYのセレブである書評家と、インド人のタクシー運転手という身分違いの2人が、互いの人生の岐路で出会い、心を通わせていく。移民国家米国らしい、実話がベースとなっているそうだ。

 監督は、『死ぬまでにしたい10のこと』で知られるスペイン人のイサベル・コイシェ。コイシェ監督と言えば、日本を舞台にした『ナイト・トーキョー・デイ』(2009)があるが、この時は興味の赴くままにラブホやら魚市場といったジャパン・カルチャーを盛り込み、珍品に仕上げた前科アリ。だが、NYとかパリなどは、誰がどこを切り取っても、変わらぬ街の風情がスクリーンに映ってしまうから不思議だ。
 女性観客層をターゲットにするのであれば、長年のパートナーと別れることになった女性が自立していくまでと、ヒロインに重きを置きがちだ。だが本作は、タクシー運転手がシーク教徒で、政治亡命をしてきたという背景もきっちり描いている。そこは人種問題に敏感な西洋人ならではの視点であり、世界を股にかけて活動しているコイシェ監督の手腕だろう。
 さらに彼が、インドから呼び寄せた同教徒との結婚に踏み切るエピソードも加え、多様な結婚観があることを我々に投げかける。物語の始まりはタクシーという小さな空間だが、なんと重層的で広がりのある物語なのだろう。
 上映時間はわずか90分。だがそれ以上の豊かな時間を観客に提供することをお約束。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:イサベル・コイシェ
原作:キャサ・ポリット
出演:パトリシア・クラークソン、ベン・キングズレー
8月28日(金)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山治美