『武道館』 「少女の選択」に優しく


社会
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『武道館』 朝井リョウ著 文藝春秋・1300円+税

 AKBグループが沖縄を拠点とするグループを結成するうわさが流れている。AKBグループは東京秋葉原、大阪、名古屋、福岡博多、中国上海、インドネシアのジャカルタ、新潟の各地で専用の劇場公演を行い、「会いに行けるアイドル」がコンセプトの歌手だ。

沖縄は1970年代に活躍したアイドル南沙織、2000年代の安室奈美恵から現在まで、多くのアーティストを輩出している。日本の芸能界を支えているといっても過言ではない。そのAKBグループが沖縄で活動しても「いまさら感」があるが、これも戦略なのだろう。
 本書は「日本武道館」でのコンサートを合言葉に活動してきた6人組女性アイドルグループ「NEXT YOU」のメンバー愛子が主人公で、幼い頃から歌って踊ることが好きな女の子だ。自然の成り行きでアイドルに憧れて、アイドルになる夢をかなえてしまった、その時の話である。「NEXT YOU」の売上ランキングに入るための販売戦略やメンバーの入れ替えで話題を呼ぶ手法は、現在活躍中のアイドルグループの多くにあるパターンで、彼女たちの視点から語られる物語には「リアル」がある。明らかに同世代のティーンエージャーと異なる状況に自分たちが置かれ、どうすることもできず「金縛り状態」になる姿は切ない。「幕があがる」(平田オリザ著)や「くちびるに歌を」(中田永一著)などの「文科系部活小説」で描かれた少女たちとは、ひたむきに生きる姿は同じだが、対極にあると感じる。
 少女の生き方としてどちらが良いかの答えはないし、選択は個人の自由だ。本書での「愛子の生き方の選択」にも意見が分かれるだろう。それでも著者の朝井リョウの眼差(まなざ)しは優しく、アイドルとして成功を手に入れ、大切なことを失った「少女の選択」を支持する。
 私のアイドルの定義は朝井リョウの言葉を借りれば、「こちらに向いているカメラのレンズは、選ばれた人しか通り抜けられない狭くて暗いトンネル」の出口を出た人であってほしい。そういう意味で、これからアイドルになりたいと思っている少女や、その親に読んでほしい一冊だ。(吉田啓・作家、メディアプロデューサー)
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 あさい・りょう 1989年、岐阜県出身。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。同作が映画化され、注目を集める。2013年『何者』で、戦後最年少で第148回直木賞を受賞。

武道館
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