『地層と化石が語る琉球列島三億年史』 太古の沖縄の姿知る


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『地層と化石が語る琉球列島三億年史』 神谷厚昭著 ボーダーインク・1000円+税

 西原町の私の家は「大陸の泥」の上にある。沖縄本島中南部に広がる泥岩(クチャ)の一部は「数百万年前、大陸の大河を流れてきた泥が海底に堆積したもの」といわれる。目の前のクチャがはるか昔、大陸を旅をしてきたもの。そんな太古の姿を想像する私の頭の中には、ここが大陸の東端であった日の姿が広がる。そのダイナミックな変化を考えるだけで、私の心はワクワクする。

 本書では、沖縄の島々に存在する石や地層、化石などの在り方を通して、琉球列島に人々が住み始めるよりもずっと以前の歴史(地史)をひもといている。
「砂浜がなぜ白いのか」「海がエメラルドグリーンに見える訳」や、人々の暮らしに寄り添ってきた「井戸・涌水が多く存在する理由」といった身近な話題から、サンゴ礁、琉球石灰岩など、話題はどんどん古い時代へとさかのぼり、半島の時代、大陸の時代などを経て最終的には3億年前、最古の沖縄の姿にまでたどり着く。読者が各々想像を膨らませることで、自宅にいながら太古の沖縄へとタイムスリップができる。
 さて、私の職場「ガンガラーの谷」では、約2万年前の「港川人」居住区の可能性から発掘調査が継続されているが、近年国内最古となる発見が相次いでいる。これらも、本土が火山灰中心の酸性土壌が多く、骨が溶けて化石が残り難いことに対し、サンゴ礁由来の石灰岩を中心としたアルカリ性地質が要因の一つとされている。沖縄本島だけ見ても中南部のアルカリ性土壌と、北部の酸性土壌では植生が違っており、自然に関わる人にとっても地質を理解することは重要といえるが、実は現在手に入る沖縄の地質を学べる一般書は非常に少ない。
 本書は2003年に「琉球列島ものがたり」として発行されたものに、最新の研究成果を加え、今年4月に新書化されたもの。著者の長年の研究・教員経験により、沖縄の地史全体像を把握することができる内容となっている。人間がこの地に足を踏み入れるよりも以前、はるか古代の沖縄の姿を知る上で、また沖縄の地質を理解する上で、現在手に入る絶好の書籍といえる。
(高橋巧・ガンガラーの谷部長)
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 かみや・こうしょう 那覇市生まれ。1967年、広島大学大学院理学研究科地質鉱物学専攻修士課程修了。2003年、県立真和志高校を最後に定年退職。現在、白保竿根田原洞穴遺跡調査指導委員会委員、新沖縄県史編集専門委員会委員。

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