『きわこのこと』まさきとしか著 2度読まずにおれない終幕


社会
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 2009年から2015年。その間、新聞の3面記事に、小さく載せられた5つの事件について作者はつづる。ある者は交通事故の、ある者は母親殺しの、当事者として物語に登場する。
 彼らがそこに至るまでの日々と心境。皆、自分の人生にじれている。こんな不幸せなはずがない、もっと愛されていいはずだ。あるいは、愛し愛されているのだと強く感じるために女をかくまい、金銭を積み、暴力に耐える。そのどれもが切実で、胃がぎゅうっと縮まるのを感じる。

 そして彼らの人生のどこかしらに、「貴和子」という女が絡んでいることがわかる。事件に直結してはいないけれど、でも登場人物の根深いところに「貴和子」はいる。ある女は少女時代、欲しいものを彼女にことごとく奪われ(たと本人は思っていて)、ある男は幼かった彼女との淡い思い出の中で暮らしている。そしてそれぞれの事件が登場人物たちに暗示するのは、誰かの「最期」だ。全編に、死の匂いが漂っている。
 それぞれの事件と物語は「貴和子」に直結しないため、普通に読むと「短編集」なのだけれど、でも「貴和子」の影によってそれらが連なっていくのがわかる。そして全編に色濃いのは「母と娘」の関係についてだ。
 泣いてわめいて母を求めた幼い日から、自立して母を疎ましく思う季節へ。あるいは、湧き上がる優越感に酔いしれて夫と先妻の間の子に虐待を重ねる女もいる。母と娘という生き物は、とかく線引きが難しい。割りきって、別々の人生を生きることが、どうもできないところがある。
 大きくなって、母の生き方を客観的に見てしまった日。そして、そこに、何らかの違和感を覚えてしまった日。女たちは大なり小なり、そういう季節を経ている(はずだ)。だから「姉妹みたい」「お友だちみたい」な母娘などありえないし、もしそうでも、それは何らかの割り切りと打算によるものだと、哀しいけどそう思う。でも、大好きなんである。だからやっかい。
 そして、最後のページに付された小さな3面記事。詳細は避けるが、もう一度最初から読み返さざるを得なくなる仕掛けが待っている。かくいう私も、これから彼らと再会してこようと思う。
 (幻冬舎 1500円+税)=小川志津子
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小川志津子のプロフィル
 おがわ・しづこ 1973年神奈川県出身。フリーライター。第2次ベビーブームのピーク年に生まれ、受験という受験が過酷に行き過ぎ、社会に出たとたんにバブルがはじけ、どんな波にも乗りきれないまま40代に突入。それでも幸せ探しはやめません。
(共同通信)

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