『天使が消えた街』 実話の殺人事件絡め、映画監督の内面見つめる


社会
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 前作『イタリアは呼んでいる』のヒットも記憶に新しいマイケル・ウィンターボトム監督。今回も、テイストは全く異なるものの彼らしい作品だ。

 2007年にイタリアの古都で起きた“ペルージャ英国人女子留学生殺害事件”に基づく。とはいえ、本作はサスペンス映画でも実話の映画化でもない。主人公は映画監督で、いわばウィンターボトムの分身。彼がこの事件を映画化しようとリサーチを重ねる姿を追った私小説もどき、というか監督本人の脳内スケッチと呼びたくなる映画なのだ。
 フィルモグラフィの初期からウィンターボトム作品に一貫するのは、リアリズムである。だが以前は、手持ちカメラを駆使したドキュメンタリー的な手法に拘泥し過ぎていた気がする。ドキュメンタリータッチというのは形式にすぎず、=リアルではない。ところが、エッセイ風の前作にも脳内スケッチの本作にも、この手法へのこだわりは感じられない。にもかかわらず、生っぽくナチュラルな作品に仕上がっている。
 劇中に「映画化するならフィクションにすべき」というセリフがある。ドキュメンタリー映画よりも“真実”に迫れるからで、今更新鮮な発想ではないけれど、本作を示唆するためにあえて入れたセリフのようにも思える。あるいは自身への戒めか? リアルとは、手法でも形式でもないんだと。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:マイケル・ウィンターボトム
出演:ダニエル・ブリュール、ケイト・ベッキンセイル、カーラ・デルヴィーニュ
9月5日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)