『EDEN/エデン』 90年代パリを生きたDJの青春と挫折


社会
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 フランス映画界の次代を担う女性監督ミア・ハンセン=ラヴの長編第4作だ。1990年代パリの音楽シーン、クラブシーンを背景に、若くして成功したDJの青春と挫折を描く。脚本にも名を連ねるミアの兄スヴェンが主人公のモデルで、物語は主人公の20年間を追う一人称形式だが、同時に群像劇としても充実し、“フレンチ・タッチ”の時代を俯瞰して見ているかのような大河ドラマ的な骨太さも感じられる。

 とはいえ、当時のパリも“フレンチ・タッチ”という音楽ジャンルも知らなくても全く問題ない。冒頭の計算された夜のシーンの長回しから、心をわしづかみにされる。しかも、手持ちカメラが基調なのに、画面の強度はそこから片時も緩むことはない。確かな技量と繊細でみずみずしい感性が生み出す画面の空気が、見る者の心の容器をじわりじわりと満たしていく。そして、最後には長編映画だけに可能な魅惑の映画体験へと誘うのだ。上映時間131分がとても短い。
 恐らくミアは、ヌーベルバーグの精神の正当で最も若い継承者だろう。けれども本作には、シネフィル臭がみじんもない。本作で揺るぎないのは、純粋に被写体とカメラの関係性だけである。エンドロールの瞬間、久々に「終わってほしくない」という喪失感が込み上げた。ずっとこの世界観に浸っていたいと思える傑作だ。★★★★★(外山真也)

 【データ】
監督:ミア・ハンセン=ラヴ
出演:フェリックス・ド・ジヴリ、ポーリーヌ・エチエンヌ
9月5日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)