『サシバ 合同エッセイ32集』 鳥の目で記憶や歴史俯瞰


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『サシバ 合同エッセイ32集』沖縄エッセイスト・クラブ編 新星出版・1389円+税

 ことしも沖縄エッセイストクラブの合同エッセイが無事、刊行された。数えて第32集は「サシバ」と命名された。時には鳥の目となり、記憶や歴史を俯瞰(ふかん)する思いが込められている。執筆者の履歴を見ると教育者と医師が目立つようだが、身近に感じる政界や経済界、そしてさまざまな文化活動を行っている多彩な顔ぶれが並んでいる。沖縄の第一線で活躍する、あるいは活躍した方々の味わい深い文章を読んでいると、いつしか時のたつのを忘れてしまう。

 儀間進氏の「私的『言語史』」は秀逸である。方言を愛する熱き心情と共通語を使わざるを得ない現状の苦い思いが痛切であり、方言を忘れ去った現代の若者に、ぜひ読ませたい。
 上原盛毅氏の「私流『謝名親方の刑死』小考」は、明と薩摩との狭間で揺れる琉球王朝の行く末を案じ、己の信念に殉死した謝名親方の生き様を論じている。辺野古基地問題で揺れる沖縄のアイデンティティーが問われる今こそ、大いに刺激的な論考である。
 いなみ悦氏の「豆腐じょうぐー」は、昔ながらの慣習が「ムートゥヤー」中心に今でも営々と受け継がれている叙景詩である。薄れつつある地縁・血縁の良俗を愛(いと)しむ心をいつまでも大切にしたいものだ。
 新城静治氏の「ネットサーフィン」は斬新だ。インターネットがバーチャルで終わることなく、実生活に生かされていることが読み取れる。若者顔負けのネット活用は、エッセイストクラブにも新しい息吹となるだろう。
 宮里尚安氏の「何もないよ、この島には」も印象に残る作品である。池間島の詩人、伊良波盛男氏の詩作を取り上げて宮古の風物を紹介しているが、クイチャーの原型やオトーリの由来の解説は、なるほどとうなるものがある。かつて岡本太郎が斎場(セーファ)御獄を見て「何も無いことのすごさ」と感嘆したが、それと重なる余韻が残る。
 紙幅の都合で寸評もここまでだが、どれも読み応えのある34編の力作である。活字を通して沖縄の文化を担うエッセイストクラブの皆さんの活動に心からの敬意を表し、今後、ますますの隆盛を祈念したい。(當銘正彦・北中城若松病院)
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 おきなわ・えっせいすと・くらぶ 会長は中山勲氏、副会長は本村繁氏、事務局長は内間美智子氏。今回の「サシバ」は34人が執筆した。編集委員長は新城静治氏