『他者という病』中村うさぎ著


社会
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凄絶な自己剔抉のドキュメント
 今いる文筆家で、中村うさぎはその仕事のオリジナリティーにおいて傑出した存在といえるだろう。買い物依存症、ホスト狂い、美容整形、デリヘルなど自らの実存と直結した体験を通じて、彼女は「おんな」の自意識のねじれを言語化してきた。本書はさらに生き死にの領域に踏み込んだ凄絶な自己剔抉(てっけつ)のドキュメントである。

 2年前、突然の病に倒れた著者は原因不明の激痛に襲われ、3カ月半の入院中、1度の心肺停止と2度の呼吸停止状態を経験した。死の淵から生還した後、薬の副作用で人格が変わり、レギュラー番組降板後はうつ病に陥って自殺を企てる。この間の軌跡を記した月刊誌連載が本書のもとになっている。
 異様な精神状態で記された文章は、自身で分析するようにヒロイズムとナルシシズムに満ちている。いつもの道化的な自己戯画化は後退し、猜疑心と他者攻撃が目立つ。しかし、むき出しの自己開示と「私とは何か」「生きるとはどういうことか」をめぐる思索は手放していない。
 「私がこれまでに書いてきたことは、すべて自分の臓物を引きずり出して読者に食べてもらう儀式だった」と書いている。誰にも見られたくない暗部を互いに引きずり出して食らいあうことによってしか彼女は他者とつながることができない。
 なんと激しく、醜く、いやらしいのか。しかし、それこそが「私」であり、生きることなのだという叫びが聞こえてくるようだ。その鬼気迫るあがきぶりは時に神々しくさえある。
 (新潮社 1300円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。山口県出身。共同通信記者を経て2007年フリーに。記者時代は演劇、論壇などを担当。09年末から本欄担当に。東京都小平市在住。
(共同通信)

他者という病
他者という病

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中村 うさぎ
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