『黒衣の刺客』 武侠映画の力作


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「妻夫木聡が出ているらしい」とか、「どうやら撮り終わったらしい」とかうわさを耳にすること数年。結果、前作『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』から8年の月日を要したが、待ったかいがあったというもの。同じく台湾出身のアン・リー監督が『グリーン・デスティニー』で切り開いた武侠映画の歴史を、さらに上書きするような見るも麗しき瞬殺のテクニックを見せる。

 ヒロインは、朝廷と最強の地方組織「魏博」の権力争いに巻き込まれ、女道士によって凄腕の刺客に仕立て上げられた隠娘(インリャン)=スー・チー。彼女が狙うは魏博の暴君であり、元婚約者の李安(ジィアン)=チャン・チェンという因縁。しかし、いざとなると情が邪魔をし、止めを刺すことが出来ない…という切ないラブストーリーでもある。
 演じているのが、共にホウ監督作の常連で、恋の噂もあったスー・チーとチャン・チェンというのも、いろいろ深読みしてしまって胸にグッと迫るものがある。チャン・チェンってば2年前、つまり本作撮影中に結婚したのよね。
 そんな雑念を振り払うように(?)、凛とした姿でスクリーンの真ん中に立っているスー・チーの美しいこと。セクシー女優としてデビューした彼女は、これまでおきゃんな役が多かったが、広大な風景をバックに立っているだけで絵になる大女優に成長したのだなとしみじみ。
 ホウ監督の無駄なものをそぎ落とした脚本と演出、リー・ピンビンの映像美、そしてスー・チーの成長という3つが合致した力作である。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:ホウ・シャオシェン
撮影:リー・ピンビン
出演:スー・チー、チャン・チェン、妻夫木聡
9月12日(土)から全国公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)2015光點影業股☆(人ベンに分)有限公司 銀都機構有限公司 中影國際股☆(人ベンに分)有限公司
中山治美