『希望をつくる島・沖縄』 県民に送るエール


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『希望をつくる島・沖縄』野本三吉著 新宿書房・1800円+税

 本書は著者が、若者に宛てた12通の手紙である。送り主は、野本三吉こと、加藤彰彦さんだ。「琉球処分」から沖縄県になった歴史に始まり、ことし5月17日のセルラースタジアで行われた県民大会までの、沖縄の姿を伝えている。著者は何度も「どうしてもキミに知ってほしかったんだ」と、若者たちの目の高さまで膝を折り、熱っぽく語り掛けている。

 著者との出会いは宮森小学校の米軍機墜落事件を扱った映画の制作委員会だった。一人息子を失い、「計り知れない悲しみと怒りを胸中に秘めて生きている」と語る母親の言葉を紹介する。なぜ本土出身の著者が、沖縄の人たちに心を寄せ、命の尊さを訴えるのか。彼には沖縄の人たちと共通する悲しい体験があった。
 3歳の時、東京大空襲の最中に生後10カ月の妹を亡くしていたのだ。母におぶられていた妹は窒息死していた。その時の母の叫び声を決して忘れないという。
 著者は今年、14年間暮らした沖縄を離れた。学長を務めていた沖縄大学の最終講義で、いつも穏やかな表情をたたえる彼の強い意志を知った。学生時代、柔道の練習で後頭部を激しく打ち、何も見えず、身体が動かない、という死を覚悟する体験をしたというのだ。
 不安と恐怖の中、彼の脳裏には安保闘争の中で逝った樺美智子さんが浮かんでいたという。
 著者は1960年、国会を取り囲む33万人の大学生の一人だった。死を覚悟しながら、自由に生きたいと願ったという。
 著者は手紙といえる本書で、何年も座り込み、体を張って基地建設に反対するオジイ、オバアたちを愛情深く見つめている。「沖縄の人たちは、自分に正直に、ゆっくり生きているんだ」と。
 本書は沖縄を大切にしてきた著者が私たちに送ったエールだ。「生きるうえで一番大切なのは希望。そして、一人ひとりが“希望”そのものになっていく」。今も厳しい状況にさらされている沖縄の人々にエールを送り、「またやーさい(またね)」と、締めくくっている。受け取った私たちは、どう生きるか、ゆっくりと返事を考えたい。(宜野座映子・ハーフセンチュリー宮森)
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 のもと・さんきち 本名・加藤彰彦。1941年東京生まれ。64年に横浜国立大学卒業後、横浜市内の小学校教諭。68年に教諭を退職し、日本各地を放浪。横浜市民生局職員などを経て91年に横浜市立大助教授。2002年から沖縄大学教授、10年に同大学長。14年、同大名誉教授。

希望をつくる島・沖縄―キミたちに伝えたいこと
野本 三吉
新宿書房
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