『琉球のアイデンティティ』 琉球問題の「百科全書」


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『琉球のアイデンティティ』比嘉克博著 琉球館・2500円+税

 本書の著者は、愛知県在住の「在日琉球人」で、本名は「青山克博」という。結婚後養子となったが、その後「琉球アイデンティティ」に覚醒し、本書を執筆したと思われる。そのような個人史への自己反省もあると思われるが、その筆鋒(ひっぽう)は鋭い。

 たとえば、「(平和=引用者)憲法や民主主義」を擁護しつつ、米軍基地撤去運動を展開する人々に対し「琉球人としての立場を忘れ、琉球固有の価値観を否定する矛盾を犯しているため、琉球人の解放運動を行っているにも関わらず、結局誰の利益を目的として行っているのか分からなく」なっている、と批判している。
 本書の内容は、極めて多岐にわたっている。章のみ示すと、「はじめに/第一章 琉球国併合(琉球処分)と近代ナショナリズムの形成/第二章 日本の同化・皇民化政策と琉球アイデンティティ/第三章 「沖縄戦」と「祖国復帰運動」の思想/第四章 「地域差別」から「民族差別」へ」からなる。琉球近代史から稿を起こし、地域・民族差別に至っている。文献渉猟も丹念に行われ、本文中に引用文が多いのが気になるが、ある意味では、近現代琉球問題の「百科全書」ともいえる内容となっている。
 そして、末尾では「琉球人意識(琉球ナショナリズム)を促進させている現在の状況は、『琉球独立』をより現実的な課題として琉球人の前に提示している。その実現は琉球人の総意に委ねられるとしても、―中略―、自らのナショナリズムと自己決定権の再統一(国家主権の回復)を実現させる唯一の道は、日本からの『独立』であることは疑いがない」と述べている。
 翁長雄志知事は、普天間の辺野古移設問題に寄せて「沖縄にすべて押しつけておいて、一人前の顔をするなと言いたい。これはもうイデオロギーではなく、民族(引用者注―アイデンティティの)問題じゃないかな」と述べている。時宜にかなった本であり、多くの読者に恵まれるであろう。
 (平良勝保・沖縄大学非常勤講師)
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 ふいじゃ・かつひろ 本名・青山克博。1959年、大宜味村生まれ。83年、日本福祉大学卒。2013年、奈良大学文学部文化財歴史学科卒。琉球民族独立総合研究学会会員。