外食業界のスターと呼ばれる男がいる。
東証1部上場企業「株式会社ダイヤモンドダイニング」社長、松村厚久氏。
どこがすごいのかというと、ほとんどの飲食店がチェーン展開によって店舗数を増やしていくところを、松村氏は1店舗ごとに業態をゼロから考え出し、ついには100店舗100業態という前人未到の偉業を成し遂げたのである。
非効率の上に高リスク、業界の常識では絶対にありえないことだ。
ちなみに松村氏が最初に出したのは「ヴァンパイア カフェ」。文字通り吸血鬼をモチーフにした内装、サービスの店。以後も『不思議の国のアリス』をテーマにしたレストランや、地元高知の食に特化した居酒屋など、個性的な店を次々とオープンし、その多くを繁盛店へと押し上げている。
本書はなぜ松村氏だけがそんな無謀なことを成し得たのか、そもそもなにが彼を駆り立てたのかを、様々な角度から、そして多数の関係者の証言をもとに浮き彫りにしていくノンフィクションだ。
タイトルにあるようにすべての源は熱狂なのである。
松村氏は現在、パーキンソン病を発症していて、日によっては起き上がることもしゃべることも困難な状態。昨日できたことが今日にはできなくなっているということも多いという。それでも彼とダイヤモンドダイニングは300業態1000店舗、100社100人の経営者集団を擁するグループという次なる目標に向かって疾走し続けている。病気を言い訳にすることは決してなく、むしろさらなる熱狂のための糧にしている。
もちろん熱狂があれば他にはなにもいらないわけではない。
周囲の人々を知らず知らずのうちに巻き込んでしまう、彼の実直で一本気な性格というのは大きいし、時代を読む力や特別な経営手腕がなければここまでの成功はなかった。パーキンソン病も気持ちだけで克服できる病気ではない。
それでも熱狂がなければ人生はないのである。
「燃え盛る魂を失うくらいなら死んだ方がましです」
すべてを燃やし尽くしても構わないという覚悟で仕事に打ち込む男の人生は、正直に言って私には眩しすぎる。あまりに熱すぎる松村氏と、そうは成り切れない自分との差異を思い、落ち込みもした。
しかし同時に、胸のうちに熱狂の火種を探している自分に気が付いたのだ。
(幻冬舎 1500円+税)=日野淳
(共同通信)
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日野淳のプロフィル
ひの・あつし 1976年生まれ。出版社で15年間、小説、音楽、ファッションなどの書籍・雑誌の編集に携わり、フリーランスに。今、読む必要があると大きな声で言える本だけを紹介していきたい。