『ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~』 チャドルを着た吸血鬼


社会
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 イランを舞台にしたペルシャ語のヴァンパイア映画だ。監督は、これが初長編となる英国生まれのイラン系女性監督アナ・リリ・アミリプール。夜の街に黒いチャドルをまとって現れ、悪人たちを襲う少女と、ジャンキーの父親に悩まされる孤独な青年が出会って…。

 モノクロの長編デビュー作、ヴァンパイアもの、音楽が際立つ作風などがジム・ジャームッシュを彷彿とさせる。才能もそうで、道を挟んで少女とジャンキーのオヤジが無言で歩く横移動のセンス、昼夜とりわけ白と黒の絶妙な色使い、セリフや説明を排してサスペンスと情感を盛り上げる語り口…に映画作家としての才気がほとばしる。
 ただし、まだ粗削り。例えば、恋に落ちた2人が少女の部屋でレコードに合わせて踊る場面では、画面が死んでしまっている。観客の意識を曲に向けさせたかったのかもしれないが、それでは会話になると単調な切り返しに終始する凡作と何ら変わらない。仮に曲の歌詞や背景が重要だったとしても、名のある曲でなければ観客を限定する作り手のエゴに過ぎず、そこに映画としての普遍性は見いだせない。ジャームッシュのヴァンパイア映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』や現在公開中の音楽映画『EDEN/エデン』とは比べるべくもない。
 とはいえ、まだデビュー作。今後が楽しみな女性監督が登場した。★★★★☆(外山真也)
 【データ】
監督・脚本:アナ・リリ・アミリプール
出演:シェイラ・ヴァンド、アラシュ・マランディ
9月19日(土)から全国順次公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)