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音楽書『幻のアルバム 失われた音を求めて』

『幻のアルバム 失われた音を求めて』(シンコーミュージック・エンタテイメント)

「…たら」「…れば」テーマにお蔵入り62作品“発掘”
 スポーツの世界で「…たら」「…れば」は禁句とされる。試合に負けた後に「あそこでヒットが1本出ていたら」「もう少し練習していれば」と、悔し紛れに口にしてしまいがちだが、それで結果が変わることはない。むしろ、潔く負けを認め、勝者をたたえることにこそスポーツの良さがあり、選手としての成長にもつながるということなのだろう。

 一方、「たら」「れば」に面白さを感じるのが、歴史だ。「あの武将が合戦で勝っていたら」などと考えるだけで楽しいし、想像もどんどん膨らむ。もちろん教科書で習うような歴史だけでなく、「もしポール・マッカートニーとジョン・レノンが出会っていなかったら」なんていうのもありだ。2人がそれぞれ別のバンドでスーパースターになったのか。それともヒット曲に恵まれず音楽活動をやめてしまったか。あくまでも仮定の話だが、2人が出会っていなかったら、今の音楽シーンが全く違うものになっていたことだけは間違いないと言えそうだ。
 そんなことを考えていたときに、「もしこのアルバムが世に出ていたら」というユニークな視点でまとめられた本が出版された。音楽ライターのブルーノ・マクドナルドが執筆した『幻のアルバム 失われた音を求めて』(シンコーミュージック・エンタテイメント)だ。
 ミュージシャンを歴史的に評価するとき、まずその作品が重要になる。だが、レコーディングされていてもお蔵入りになってしまうことも珍しくない。本書は1960年代から2000年代にかけて、何らかの理由で日の目を見なかった大物アーティストのアルバム62作品を紹介し、その背景や真相に迫っていく。
 取り上げられているミュージシャンは、ビーチ・ボーイズやビートルズのほか、ザ・フー、ブルース・スプリングスティーンなど。「アルバムが発売されていたら、こんなイメージだったのでは」と架空のジャケットを制作して掲載するなど遊び心も満点だ。著者の独自の判断で、当該のアルバムが今後リリースされる可能性にまで言及しているが、ここはまさに神のみぞ知るというところだろう。
 「キング・オブ・ポップ」として親しまれたマイケル・ジャクソンの新譜『XSCAPE(エスケイプ)』は、彼が亡くなってから約5年後の2014年に出た。存命中に収録曲を発表していたら、マイケルはどんなパフォーマンスを披露していただろうか。そんなことを考えながら、あらためて『XSCAPE』を聴き直した。(松木浩明・共同通信記者)
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松木浩明のプロフィル
 まつき・ひろあき 1996年入社。昨年5月から文化部で音楽担当。「もう少し音楽センスと文才があったら」と密かに思い悩む日々。
(共同通信)


幻のアルバム 失われた音を求めて
ブルーノ・マクドナルド
シンコーミュージック
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