『ぼくの〈那覇まち〉放浪記』 失われた記憶に触れる


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『ぼくの〈那覇まち〉放浪記』新城和博著 ボーダーインク・1600円+税

 「雪崎」「指帰橋」「シーシンサー」「壺川ホウホウ」「仲西ヘーイ」…これは本書で出てくる那覇の場所や場所にまつわるキーワードである。知っているようで知らない那覇のまち、皆さんはいくつご存じだっただろうか。

 本書は那覇で生まれ育った著者が昔の記憶、先人が残した那覇についての随筆、那覇市の古い地図を基に、昔の那覇の姿を求めてさまよい歩く「追憶と妄想のまち歩き・自転車散歩」のエッセー集である。
 ある時は浮島だった頃の那覇の海岸の痕跡を求めて、またある時は山之口貘の随筆から貘が生まれ育った泉崎の生家の辺りをぶらぶら歩き、ぼんやりと昔の那覇に思いをはせる回想(時々妄想)のまち歩き。特別なことが起こるわけではないが、偶然かつてあった町屋の跡地を見つけたり、今は陸地になっているかつての岬を見つけたりと著者が見つける小さな発見についついこちらもうれしくなってしまう。まちや小(グヮー)を「街のほくろ」と表現したり、道路拡張工事の風景を「妙に広々としたネイキッドな街角」と表したりと独特な表現も面白い。まち歩きの情景が目に浮かぶようで著者と一緒に那覇のまちを巡っているような気分にもなれる。
 本書で取り上げられている那覇の場所、年代はエッセーごとに戦前や近代などバラバラであるが、それらを読み進めていくうちにそれが像を結んで著者の記憶にあるまちや小の姿や、かつて港町だった頃の那覇の町並みがぼんやりと目の前に浮かんでくるような気になってくる。戦争で失われてしまった那覇のまち、閉店してしまった本屋やまちや小、変化は大なり小なりどんどん起こっているが、本書を通して那覇が持っている「まちの記憶」みたいなものに触れることができるのではないかと思う。
 また本書は昔の那覇を巡るエッセーというだけでなく、自分が住んでいる「いつものまち」をもう一度じっくりと見返すことのススメにもなるのではないかと思う。ぜひご一読のうえ、あなたの街を放浪するためのマニュアルにしていただきたい。 (本田義統・DEEokinawaライター)
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 しんじょう・かずひろ 1963年、那覇市生まれ。城岳小学校、上山中学校、那覇高校を経て、琉球大学法文学部社会学科社会人類学コース卒。月刊誌「青い海」、沖縄出版を経て、現在、ボーダーインク編集者。

ぼくの“那覇まち”放浪記―追憶と妄想のまち歩き・自転車散歩
新城 和博
ボーダーインク
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