【島人の目】命の沙汰も金次第


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 駐在員の友人が腰の手術で入院。日本の保険が適用されるまで前払いした医療費は、優に家1軒が買える金額で支払いに往生した。米国では骨折の手術で1日入院すると150万円、盲腸の手術代167万円、麻酔代47万円、その他もろもろで全額575万円。保険に加入していても、病院や保険内容で違うが自己負担額は116万円になる。

 国民皆保険制度がない米国は、自営業や自由業の人は、各自で保険会社と契約、給与者は勤務する会社や組織が一部を負担する民間医療保険に加入する。その保険額と医療費が年々高騰してきている。
 その背景には医療界に国の介入がなく、医療を規制する法律がないことがある。高額な医療費、薬剤費、そして悪質な保険もあり、米国の自己破産原因の6割が医療費だという。医療保険に加入済みでも、民間保険会社は控除額に達しないといい、さらには保険適用外などと主張し出し渋る。中流レベルの誰でも深刻な病気になれば破産しかねない状況だ。
 刑務所で無料の医療を受けるためにわざと犯罪を犯したという笑えない話もある。毎年、4万5千人が医療にかかれず亡くなっている現状はまさに「弱者を見捨てる」制度で、米国の医療界はもうけのみのビジネスに転じている。
 その根拠に保険業界と製薬会社に莫大(ばくだい)な利益がもたらされている。オバマケアもふたを開ければ、結局は民間保険会社がもうけるシステムにすぎない。保険費が高すぎて民間の保険を買える余裕のないグレーゾーンの保険未加入者が300万人。彼らは日々、病気にかからないためのおまじない「Knock on wood」で机をたたき、いつまでも運が続くようにと願っている。
 以前日本の市役所の窓口で「国保は人を救済するための社会保障。助け合いの精神」と言われた。何とありがたい制度か。だが、公平な医療の恩恵をなきものにし、医療を商品化しようとする米国のヘルスケア業界が、虎視眈々(たんたん)と日本を狙っている。事故に遭って病院で軽い検査を受けただけで「120万円」も取られることにならないよう、国民皆保険制度を守っていくべきだろう。
(鈴木多美子、バージニア通信員)