『だから、生きる。』つんく♂著


社会
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元気があればノロケも言える

 今年4月、自身がプロデュースした近畿大学の入学式で、癌により声帯の摘出をしたことを告白したつんく♂。本書はミュージシャンとして活動してきた20代からの半生、そして彼を襲った喉頭癌、その闘病の日々を記した自伝である。

 シャ乱Qのフロントマンとして休む暇もなく働き続けた20代、モーニング娘。をはじめ、アイドルのプロデュース業で大成した30代。声、つまり身体を商売道具にしているため、不調があればすぐに病院へと駆け込んでいたという。眠れなければ睡眠導入剤、ライブの前にはニンニク注射、そのほか点滴、サプリメント……ありとあらゆる薬に頼って、彼はプレッシャーや疲労、不眠をなかったことにして走り抜けた。
 そんな彼に降りかかった突然の病。いや、本当は突然などではない。ずいぶん前からかすかな違和感は始まっていた。日によって変わる喉のコンディションに手を焼きながらも、彼はさほど気に留めていなかった。
 そして病気が発覚する。心の準備もないまま始まる闘病生活。
 商売道具でありアイデンティティでもあったであろう声を失うことへの不安が描かれているが、しかしある瞬間を境に彼の声への執着がフッと消えた。その瞬間はつまり、死を意識した時だ。
 声か死か。そう考えた時につんく♂の頭に浮かんだ、妻と子供たちの顔……。そう、本書は闘病記であると同時に、家族へのラブレターでもある。
 妻との出会いから結婚まで、新婚生活、妊娠出産と、2人のエピソードが描かれている。結婚前、年末年始につんく♂が実家の塩干・乾物屋に嫁(当時彼女)を単身で送り込ませて1カ月以上店の手伝いをさせるというエピソードがあったが、何がしたいのか完全に意味不明。あれですか、ライオンの親が子供を崖から落とす的な?………いやいやいや。
 そんな風に嫁を雑に、というか理解不能な扱いをしてきたつんく♂だが、本書で嫁にしきりに謝っているのも可愛い。これは闘病記の皮を被った自伝、の顔した甘々のノロケですね。でもノロケられるのも元気になったからこそ。良かったね。ごちそうさまでした!
 (新潮社 1300円+税)=アリー・マントワネット
(共同通信)
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アリー・マントワネットのプロフィル
 アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。

「だから、生きる。」
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