『徘徊 ママリン87歳の夏』


社会
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認知症の母とその娘の日常を追う

 大阪・北浜でギャラリーを営む酒井章子さん(55)と、認知症の母親・アサヨさん(87)の日常を追ったドキュメンタリー。

 同様のテーマでは関口祐加監督『毎日がアルツハイマー』シリーズがあるが、こちらはより定点観察のようにアサヨさんの言動を追っており、医学的見地からも非常に興味深い映像なのではないだろうか? 章子さんを認識しているなと思った数分後には赤の他人として接したり、噛み合っていたはずの会話が急にあらぬ方向へ飛んだりする。またその悪態をつくボキャブラリーがやたら豊富だったりするから驚きだ。認知症は未だ解明されぬ病だが、ますます人間の脳の不思議さは深まるばかり。そのアサヨさんを付かず離れず介護する章子さん。彼女は約6年前にアサヨさんと同居をはじめ、徘徊パターンを観察・分析して今に至るという。カメラに写っていない間の彼女たちの時間を思うと切ない。
 本作は同時に、地域コミュニティの在り方も映し出す。北浜と言えば都会のど真ん中。だが、徘徊する母を近所の店舗の皆さんが、さりげなく面倒をみてくれるご近所さん付き合いが成立している。介護はどうしても内に籠もりがち。それが時として悲劇を招くことがある。しかし、ちょっと手を差し伸べるだけでいかに当事者たちの救いとなることか。それは介護だけではない。イジメにDV、孤独死etc…様々な社会問題の解決の糸口になるであろう多くのヒントが、本作にはある。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督・撮影・編集・製作:田中幸夫
助監督:北川のん
出演:酒井アサヨ、酒井章子、2匹の猫
9月26日(土)から順次公開
(共同通信)
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。

『徘徊 ママリン87歳の夏』
中山 治美