『一献の系譜』 能登の酒造りに賭けた人生


社会
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 石川県珠洲市に伝わる揚げ浜式製塩法に迫った『ひとにぎりの塩』に続く、石井かほり監督の能登ドキュメンタリー第2弾。今回は酒造り。農業の閑散期に当たる寒さ厳しい冬の時期に発酵技術を用い、手塩にかけて製造される。その過程を能登の自然の変化と共に丁寧にカメラが追うのはもちろん、“能登杜氏四天王”と称される4人にスポットを当て、酒造りに人生を賭けた姿を描く。

 そこでぶち当たるのは、揚げ浜式製塩法同様に後継者問題。伝統産業共通の課題だと思うが、こと能登にとってはかなり深刻な問題であることを先日、日本テレビ系で放送されたNNNドキュメント『能登消滅9分の8の衝撃』で知った。同番組によると、能登のほとんどの自治体が、2040年までに20~39歳の若年女性が半減する「消滅可能性都市」に該当するという。だが、そんな厳しい現実を感じさせないほど、本作が映し出す能登の冬景色は美しく、そして厳かな酒造りの一挙手一投足に見とれてしまう。
 この伝統と味、そしてこの能登の雄大な風景を絶やしていいのか…。言葉で語らずとも、本作はそんな事を静かに訴えかけてくる。能登杜氏初の女性誕生にわずかな希望を抱きつつ、呑助としては“呑んで貢献”を固く誓ったのだった。★★★☆☆(中山治美)

 【データ】
監督:石井かほり
撮影:田宮健彦
ナレーション:篠原ともえ
9月26日(土)から順次公開
(共同通信)
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。

(C)2015映画一献の系譜製作上映委員会
中山 治美