『罪の余白』 原作のサスペンス小説を独自に仕立て直す


社会
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 原作は新鋭女性作家によるサスペンス小説。1人の女子高生の転落死の謎に被害者の父親が迫る話で、行動心理学者の彼と、事件の黒幕である娘の同級生の美少女の対決が軸になっている。ただし、原作の美少女は貴志祐介の小説に出てきそうなサイコパスなのだが、映画ではもう少し等身大というところがミソ。

 監督は、『スープ~生まれ変わりの物語~』の大塚祐吉。彼は恐らく“サスペンス”に興味がないのだろう。本作の魅力も、2人の対決よりは学校の描写、少女たちの透明感にある。本来なら行動心理学者と得体の知れないサイコパスの次元の高い駆け引き(『デスノート』のような)が予想されるところだが、主人公は娘を失った平凡な父親に過ぎず、黒幕もプライドが高いだけの夢見がちな女子高生。だから、どちらも物語の推進力になり得ない。
 そこで登場するのが、主人公に思いを寄せる同僚。彼女は典型的なトリックスターである。前半は主人公の周辺をちょこまかとうろついて滑稽なくらいだが、後半では彼の行動を促す役割を担っている。起承転結の転も結も彼女が発端だったことに、見終わって気付かされるのだ。
 そんな職人的なテクニックすら駆使してサスペンス小説を別モノの映画に仕立ててしまう大塚監督の恐るべき作家性! 好き嫌いは割れそうだが、『スープ~』がそうだったように見たこともないタイプの、でも好きな人は病みつきになる映画である。★★★☆☆(外山真也)

 【データ】
監督・脚本:大塚祐吉
原作:芦沢央
出演:内野聖陽、吉本実憂、谷村美月
10月3日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

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外山真也