『本屋になりたい』 道切り開く女性の底力


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『本屋になりたい』宇田智子著、高野文子絵 ちくまプリマー新書・820円+税

 ヤマトから来た若い女性が無我夢中で始めた古書店商売の話である。著者は、だんだんと那覇の市場の中に溶け込んでいくのだが、そこには那覇で商売する人々との関わりも大きかったはずだ。それに沖縄古書店界のアニキと呼ばれている天久斉さんなどのアドバイスを得ながら、徐々に市場の中の一風景化していく様子が好ましい。

 宇田さんは意識していないはずだが、実は沖縄の伝統的な相対売り商売に染まりだしている。
 沖縄には、「買(こー)い親戚(ぅえーか)」というチビラーシーすてきな言葉があって、買い物を通して、買い手と売り手が親戚のように親しくなるというものだ。そういえばこれもアニキから聞いたことなのだが、「宇田さんにはおじさんたちのファンが付いている」と。
 なるほど、そうか、それが誰だか分かるような気もする。だが、気づいているかもしれないが、沖縄の底力はおじさんたちではなく、実はおばさんたちだよ。
 「市場の古本屋ウララ」が立地している一帯は、戦後ずっと那覇市場の中心地だった。沖縄戦で男手を奪われ、女手ひとつで何人もの子どもたちを育て上げてきた女性たちが必死に立ち働いていたのが、まさに「そこ」。
 那覇の経済を動かしていたのは全ておばさんたちだった。同じ境遇の買い手と売り手の結びつきは半端ではなかった。本を読み進めているうちに、それが今につながっている感じを受けた。
 この「ちくまプリマー新書」は、若い世代向けのレーベルらしいのだが、決して、古本屋の経営を目指す参考にはならないはず。時あたかも、若い世代が自分たちの将来を憂い、みずみずしい声を出し始めているのだが、この本は自らを切り開いていくための指標の本として読んだ方が面白いと思うな。
 さて、最後にクイズをひとつ。Q.宇田さんの本が一番売れた本屋さんはどちらでしょうか?
 (1)彼女が以前に働いていた沖映通りの大型書店。ブーッ。(2)大東島へ出張販売をするパレットくもじ内の大型書店。ブーッ。(3)自分の店。ピンポーン。
 (宮里千里・栄町市場限定エッセイスト)
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 うだ・ともこ 1980年、神奈川県生まれ。2002年にジュンク堂書店に入社、09年同店那覇店に異動。11年に退職、那覇市の第一牧志公設市場向かいに「市場の古本屋ウララ」を開店する。著書に「那覇の市場で古本屋ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々」。

本屋になりたい: この島の本を売る (ちくまプリマー新書)
宇田 智子
筑摩書房
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