『平和は「退屈」ですか』 「語り部」育てるヒント


社会
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『平和は「退屈」ですか』下嶋哲朗著 岩波現代文庫・860円+税

 戦後70年、県人口に占める70歳以上の割合は15%を切った。戦争体験を記憶し、語ることができる80歳以上となると5%ほどだ。ひめゆり平和祈念資料館でも、元学徒の高齢化を理由に、開館(1989年)以来続けてきた体験講話を終了した。沖縄戦体験をどう継承していくか、今後の大きな課題といえよう。

 平和教育で沖縄戦を学んだ若者が、戦争体験のない人にどのように沖縄戦の実相を語ることができるか。この難題に取り組んだリポートが本書である。ノンフィクション作家・下嶋哲朗氏が主催した「虹の会」の活動記録「平和は『退屈』ですか」で、2004年8月から500日にわたる成果をまとめたものだ。
 参加者は戦争体験を語る元ひめゆり学徒の方々と、それを継いで新しく伝える人としての若者たちである。取り組みのきっかけは、ある平和集会で、「戦争体験を語り継ぐ」元ひめゆり学徒の「言葉がこころに届かない!」という女子高生の衝撃の発言だった。
 若者たちは、戦争体験者との対話やディベート、フィールドワークを通して、体験はなくても「戦争について学ぶことができる。想像もできる。自分なりに歴史像も想像できる」「行動することで、こころに平和が残る」ことを実感する。下嶋氏は、伝える人になる仕事を「いのちの仕事」だと結論づける。
 戦争体験の継承に対する現在の若者の意識はどうだろうか。5月に報告された沖縄歴史教育研究会の高校生アンケートによると、94・1%の生徒が「沖縄戦について学ぶことは重要」と答えている。戦争体験者が減少していく中、多くの若者が「悲惨な沖縄戦の実相を後世へ伝える継承者」としての自覚を強く抱くようになったからだと思われる。
 しかし知識は乏しく、語り継ぐ方法もわからないというのが実態だ。本書には若者を語り部として成長させるためのヒントが詰まっている。ぜひ平和学習の参考にしてもらいたい。
 なお、本書は2006年に一度刊行された内容に、当時の若者たちの10年後の活動や考えを付記し、文庫化に際して新たに出版された。(新城俊昭・沖縄大学客員教授)
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 しもじま・てつろう 1941年、長野県生まれ。ノンフィクション作家。著書に「非業の生者たち―集団自決 サイパンから満州へ」「沖縄・チビチリガマの“集団自決”」など多数。