『THE 精神病』 治療者へ生き方の“極意”


社会
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『THE 精神病』松村豊著 出版舎Mugen・1200円+税

 精神障がいの当事者が執筆したり、絵画の個展を開いたり、講演したりと一昔前と比べると彼らが生活し社会に貢献する場は確実に広がっている。

 分裂病(統合失調症)と診断され、治療が開始された。精神科病院への入退院も繰り返した。

 この本の面白さは卒業後設計事務所に就職するという経歴もあり、冷静に自身と周囲を観察できていることである。関係者なら著者の筆致に思わず口元を緩ますだろう。精神病患者の周りで起こる理不尽な出来事も多い。父親が、やはり障がい者である著者の兄の障害年金を全て掠(かす)め取っていた事実を知った後の父への怒りの描写さえ温かい。新薬を発売する製薬会社に招待され、日本から著者も含め総勢8人が米国、インディアナポリスを中心に二週間豪遊する。経過がコミカルに描かれているが、一切の費用が製薬会社持ちだと知り「精神病患者に大量の薬を与えてぼろもうけしているのが製薬会社だ」と喝破する。もちろん薬による治療は必要ではあるが、全てではない。

 発病、外来治療、理不尽な留置場、入院治療、保護室、退院、結婚、精神科支援事業所就職、自身の内服薬変遷の分析など精神病患者が経験する一連の経過は、その文章力で一般の読者でも理解できる。

 統合失調症に限らずうつ病でも他の精神病にも通用する生き方の“極意”を著者はブログにこう記した。「薬を飲みながら仕事をするのは辛(つら)い。体もだるい。だからあまり頑張らず無理をしないで日々を乗り切っていく術を身に付けなければなりません。…私の場合『超低空飛行』でいいので、周りに支えられながら『墜落』だけは免れるようにと割り切っています」

 読み終えれば治療者も力を得る。
 (仲里尚実・精神科医、県保険医協会会長)

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 まつむら・ゆたか 1954年、恩納村生まれ。福井大学工学部建築学科卒。精神保健福祉士。県精神保健福祉会連合会・地域生活支援センターてるしのや、就労継続支援B型事業所PCNET―NAHAなどに勤務した。

THE精神病―当事者の赤裸々な体験記