【チャイナ網路】蒋経国を祭る人々


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 港町・基隆にある福泉寺は、台湾でも珍しい蒋経国を祭る寺院だ。戦後台湾に撤退した国民党軍に付き従った「大陳義胞」。彼らがこの寺を建立した背景には、その特異な境遇がある。
 1955年、中国全土を掌握した共産党軍は沿岸の離島に転戦。蒋経国率いる国民党軍を浙江省の大陳島に追い詰めた。2月、国民党は米国と協議の結果、中国撤退を決定。この時、大陳島の全住民も共に退去している。この行為が反共的義挙だとして「義胞」と称されているのだ。
 古老が語るところによれば、持ち出せた荷物は1人わずか15キロ前後。目前に迫る共産党軍にスパイ容疑で処刑されるという恐怖が、彼らを船へと駆り立てた。軍民2万8000人の歴史的大撤退は、1人の死者を出すこともなく、わずか4日間で完了している。
 決して恵まれた境遇ではなかったが、政府の援助で何とか暮らした50数年。「われわれは国民党に救われたのだ」と古老は語る。若年層には「義胞」の意味を知る者も少なくなった今も、彼らの国民党に対する忠誠心は変わらない。
 (渡辺ゆきこ、本紙嘱託・沖縄大学准教授)