【島人の目】仲宗根雅則/大ボスの行方


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 イタリアのマフィアの頂点に君臨しているボスは、今年で72歳になるベルナルド・プロヴェンツァーノである。彼は30歳の時から警察の追及を逃れてシチリア島のどこか、恐らく中心都市のパレルモに潜伏しているとされる。プロヴェンツァーノに関する情報はほとんど無く、警察は唯一残されている20代の彼の写真を基に、老境に入った犯罪者の指名手配写真をコンピューターで作成したりしてきた。
 ところが、今年に入って具体的な彼の近況が少しずつ表に出始めた。きっかけは大ボスが島を抜け出してフランスで前立腺の治療を受けた折、病院で偽の国民保険証を提示してマフィアのお尋ね者だとばれたことだった。
 逃亡中の病気の治療に国民保険を使うところが、国から盗めるものは徹底して盗もうとするいかにもマフィアらしい動きだ。彼が身長165センチ、体重68キロのずんぐりした体格の老人であることも今回初めて分かった。
 潜伏中のマフィアの凶悪犯の消息が突然マスコミに漏れ出るのは、ボスの中のボスといわれたトト・リーナが逮捕された時と同じ状況である。彼は妻子とともに逃亡生活を送って23年間も杳(よう)として行方が知れなかったが、1993年に突然すべてが明るみに出てあっという間に捕まった。今回もそれに似ている。
 もしかすると、プロヴェンツァーノの逮捕は間近に迫っているのかもしれない。ただ、そう思わせておいて、すべてをひっくり返して闇に封じ込めてしまうのも、巨大犯罪組織マフィアの得意とする手口だ。大ボスが健在だと世間に知らしめるための情報操作、宣伝活動である可能性も皆無とは言えないのである。
 (イタリア在住、TVディレクター)